宇宙旅行で「低重力」が人体に与える深刻な影響 生命を維持するための「星間宇宙船」の設計
東洋経済オンライン / 2024年6月21日 15時20分
骨粗鬆症は、宇宙飛行士が経験する骨量低下と同様の現象で、重力がないからではなく、加齢と、運動不足による骨の負荷不足によって、やはり骨強度が低下し、骨折しやすくなる病気だ。
宇宙飛行士は筋肉量も低下する
宇宙飛行士は筋肉量も低下する。これは、宇宙の無重力環境では、物体の質量は変わらないが、その重さはゼロになってしまうことを考えればわかりやすい。
重さは、物体に働く重力の大きさである。重力がなければ重さはない。私たちの日常生活を振り返ってみると、筋肉を使うときはいつも、何らかの重さを持ち上げていることがわかる。何を持ち上げるにしても、そのために使う筋肉には負荷がかかって筋肉は強化されるし、質量が大きな――したがって、地球上では重い――物体は、より大きな負荷を筋肉にかける。
宇宙においては、地球では当たり前のこのような負荷が筋肉にかかることはめったにないので、筋肉は劣化し、宇宙滞在11日めごろまでには筋肉量は20%も低下してしまう。
さいわい、無重力状態でもきつい運動を行えば筋肉量を維持することができ、ISSに滞在する宇宙飛行士は毎日2.5時間ものエクササイズを行って筋肉量低下を防いでいる。
何の対策もせず骨も筋肉も減るに任せておくと、筋肉量と骨密度/骨強度は著しく低下し、数十年、あるいは数百年にわたる深宇宙飛行を終えた人間が、外惑星に降り立つ際に巨大なリスクになりかねない。
筋肉量が低下したことに加え、前庭神経も系外惑星の重力にすぐには適応できないため、見知らぬ惑星の上を歩き始めたときに無様に転ぶだけでなく、骨折してしまう可能性も非常に高い。有人宇宙船の設計では、宇宙旅行で生じるこのマイナスの影響を緩和するための工夫が必要になる。
重力による加速を再現する
「大きく考える」――ここまでの話でおわかりいただけたとおり、これがあらゆる星間旅行の主題だ――なら、解決法は見つかる。
人間が重力とその影響をどう感じるかについて考えてみよう。まず、最近、車の運転でアクセルを踏んだとき、乗っている飛行機が離陸直前に滑走路で加速したとき、エレベータに乗っていたときのことを思い出してみよう――どの場面でも、あなたが経験した加速は、持続時間は長くなかったとしても、経験している最中はまるで重力のように感じられたはずだ。
その理由は、重力とは、加速されていることの影響を指して人間がそう呼んでいるものだからである。地球上で私たちが感じる加速は、地球の質量に引っ張られていることが原因で生じる。ほかの例では、速度が次第に高まることによって加速が生じ、それが力として感じられる。原因は違っても効果は同じだ。
このことがわかれば、筋肉と骨の劣化を防ぐアイデアも浮かびやすくなる。たとえば、重力による加速を再現できるようなペースで自転する巨大な居住空間を作れば、人体は骨強度と骨量を維持するために必要な圧縮力を受けることができるし、さらに、そのような環境では物体が重さを持つようになるので、重い物体を動かせば筋肉に負荷がかかって、筋肉の劣化も防げるだろう。
これまでに宇宙飛行士たちが宇宙で過ごした時間は限られているので、まだ知られていない長期的な影響がほかにもいろいろあるに違いない。
これまでのところ、ロシアの宇宙飛行士ワレリー・ポリャコフが1995年から翌年にかけて樹立した、連続宇宙滞在438日という記録よりも長期間連続で宇宙で過ごした者は誰もいない。
(翻訳:吉田三知世)
レス・ジョンソン:物理学者、NASAテクノロジスト
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