日本人は「賃金停滞」の本質をわかっていない 企業利益は急増しているのになぜ増えない?
東洋経済オンライン / 2024年6月23日 11時0分
2023年の春闘以降、賃上げが進んでいると喧伝される。しかし、法人企業統計調査のデータでは、人件費の総額はほとんど増えていない。他方で、企業利益の増加は著しい。なぜこうしたことになるのか?昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕するーー。野口悠紀雄氏による連載第123回。
粗利益と経常利益は増加の一方、人件費は増えない
春闘で高い値上げ率が実現し、物価と賃金の好循環が始まっていると言われる。これは、法人企業統計調査のデータによって確認できるだろうか。
6月3日に公表された法人企業統計で2024年1〜3月期までのデーターが利用可能になったので、以下ではこれを用いて分析を行う。分析の重点は次の2点だ。
1.企業の粗利益 (売り上げ−原価)は、どのように変化したか?なぜこのように変化したのか?
2.粗利益は人件費と企業利益に分配されるのだが、分配の比率はどのように変化したか?
この2点について、実際に生じたことをあらかじめ述べれば、次の通りだ(図1参照)。
2022年1〜3月期から2024年1〜3月期までの2年間において、法人企業の粗利益は13.3%増加し、経常利益は20.1%増加した。しかし、人件費は7.3%しか増加しなかった。では、なぜ粗利益と経常利益が増大したのだろうか?
2021年の1~3月期から輸入価格が急騰した。これは、原材料価格など、企業の原価を引き上げた。企業はそれを売上げ価格の引上げに転嫁したのである。
どの程度の転嫁が行われたかは、GDPデフレーターーで確かめることができる。GDPデフレーターとは、GDPについての物価指数だ。GDPを構成する各支出項目についてデフレーターが算出され、それらの加重平均としてGDPデフレーターが算出される。
GDPの計算で、輸入は控除項目だ。つまり、他の項目が不変で輸入が増えれば、GDPは減少する。だから、輸入物価が高騰して他の価格が不変にとどまれば、GDPデフレーターは、輸入物価上昇率に輸入のウェートを掛けた分だけ低下する。
しかし、輸入物価の高騰分が国内物価に完全に転嫁されれば、輸入物価の上昇にウェートを掛けた値と国内物価の上昇にウェートを掛けた値とがバランスして、GDPデフレーターの上昇率はゼロになる。この場合、国内物価が上昇しているにもかかわらず、GDPデフレーターーの伸び率がゼロなる。
輸入物価の上昇は企業の売上価格に転嫁された
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