自由競争できる社会=公平と思う日本が陥る悲劇 競争しなくても目的を達成する手段はある!
東洋経済オンライン / 2024年6月23日 14時0分
財政社会学者の井手英策さんは、ラ・サール高校→東京大学→東大大学院→慶應義塾大学教授と、絵に描いたようなエリート街道を進んできました。が、その歩みは決して順風満帆だったわけではありません。
貧しい母子家庭に生まれ、母と叔母に育てられた井手さん。勉強机は母が経営するスナックのカウンターでした。井手さんを大学、大学院に行かせるために母と叔母は大きな借金を抱え、その返済をめぐって井手さんは反社会的勢力に連れ去られたこともあります。それらの経験が、井手さんが提唱し、政治の世界で話題になっている「ベーシックサービス」の原点となっています。
勤勉に働き、倹約、貯蓄を行うことで将来の不安に備えるという「自己責任」論がはびこる日本。ただ、「自己責任で生きていくための前提条件である経済成長、所得の増大が困難になり、自己責任の美徳が社会に深刻な分断を生み出し、生きづらい社会を生み出している」と井手さんは指摘します。
「引き裂かれた社会」を変えていくために大事な視点を、井手さんが日常での気づき、実体験をまじえながらつづる連載「Lens―何かにモヤモヤしている人たちへ―」(毎週日曜日配信)。第12回は「競争が豊かさを生むのか?」です。
私には野球が「神業」に見える理由
少しばかりおかしな話をしてみよう。
私は子どものころから野球が大好きだ。好きが高じ、勢いで中学の野球部に入部したのはよかったが、自分でも笑ってしまうほど才能がなく、試合に一度も出られずに3年を終えた。
私にとって、野球は「驚愕」の名に値するスポーツだ。
ピッチャーが猛烈なスピードでボールを投げ込む。バッターはそのすごい速さの小さな球にバットを当て、遠くに飛ばす。野手は打者がボールを打った瞬間に落下点を予測し、そこに全力で回りこみ、捕球する。
私も中学生のときに練習したが、何回やっても、何十回やってもこの基本動作が身につかなかった。あまりのセンスのなさに、私の足は部活動から遠のいた。「下手の横好き」にすらなれなかったわけだ。
草野球でも、小学生の試合でも、私には神業に見える。投げ、打ち、捕る。それがたとえ外野フライであっても、その流れは、私にはひとつの「芸術」のように映った。
ところが、私にとっての芸術は、打者の「アウト」の一言で片づけられる。そして、何事もなかったかのように、「試合」は淡々と次のフェイズに進む。
野球がとことん下手だった私からすれば、投手も、打者も、野手もいずれもすばらしいプレーヤーだ。それなのに勝ち負けがつく。いつも不思議で、複雑な気持ちにおそわれてしまう。
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