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「千年古びない浮気描写」の妙を角田光代と語る 源氏物語の新訳に挑んだ5年がもたらしたもの

東洋経済オンライン / 2024年6月25日 9時0分

ちなみに私は、藤壺は「嫌だった」派なんですね。嫌だったのに犯されてしまって、だから帝に顔向けできないと。創作が入るなら別ですが、原文を読む以上はみんなそう受け取るだろうと、疑いもしませんでした。

「#MeToo運動」広がった後の訳者

――角田さんがそう読んだ背景に、「時代」があると。

私が、#MeToo運動(セクハラや性犯罪被害の体験を共有し、それにあらがう運動)が広がった後の訳者であるのは大きいと思います。たぶんその考え方が、私の中にも根付いている。だから藤壺も、ウエルカムだったはずがない、嫌だと言えなかったのだと、自然に捉えたのかなと。

実際、そういう話がよく騒がれていますよね。被害を受けたと告発した人が、「それならなぜ被害に遭ったそのときに言わないの?」みたいに責められるケースもある。いや、言えなかったんでしょう。そうされた自分が悪かったのだと思い込んでしまったんでしょう。

やっと最近「そのとき言えなかったのは、受け入れたのではなくて、嫌すぎて認められなかった」という声が理解されるようになりましたよね。完全に理解されたとは言いがたいですが。

そんな時代の中にいると、やっぱり藤壺もそうだったんじゃないかと思ってしまう。10年前に読んだならこういう感想を持たなかったかもしれないし、もし50年後に訳す人がいるなら、また別の読み方、感じ方をするのかもしれません。

――以前のインタビューで、「源氏物語は少年ジャンプの人気連載のよう」と語っているのが印象的でした。

源氏物語は紫式部が1人で書いたという前提で考えると、その過程で、式部という人は物語づくりがどんどんうまくなっていくんですね。

最初は拙い短編のような感じなんですが、宮中にお勤めして、日々きらびやかな世界を見て、いろいろな人の話も聞いて盛り込んでいったのでしょう。読者の反応も届くようになったと思うんですが、そうするとそれに応えるかのように、さらにエンターテインメント性を帯びていきます。

とくに「若菜」の帖はすっごく面白い。作家としてまさに脂が乗り切っているな!と感じました。現代小説でいう、伏線があって回収して……という流れが詰め込まれていて、さらに人間の複雑な気持ちもしっかり描かれている。すごい完成度だと思いました。

この感じ、現代の作家にも重なります。1人の作家がデビューして、編集者や評論にもまれながら一生懸命勉強して、成長していく。昔も今と同じだったのではないかと想像します。

なぜ「光源氏の死後」まで物語が続いた?

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