「現金で変わった」パプアニューギニアの食風景 「イモより米が食べたい」と人々が語る背景
東洋経済オンライン / 2024年6月30日 12時0分
この2つが主な主食だが、もうひとつ週1くらいで登場するものがあって、それは米。米はちょっと特別で、それは畑でとれるものではなくて現金が必要だから。しかも近年値上がりが著しく、ますます手が届きにくくなっているそうだ。
仕事、とは?
翌朝は、サゴヤシでんぷんを収集するために森に向かった。村を歩いていると、昼間から男たちとよくすれ違う。「やあ!」なんていうけれど、仕事に行かなくていいんだろうか。すると数十人いるこの村で「現金収入のある9時5時の定職についているのは2人だけ。他の人は、主に畑仕事をして自分の家の食料を育てているんだよ」と文化人類学者の方が教えてくれた。
ああそうか、そうだよな。人間社会って、元々そういうものだ。しかしお金がものを言う社会で育った自分には、現金がなければどうやってほしいものを手に入れるのか見当がつかない。食べるものは畑から手に入るからよいとして、料理のための油や塩、子どもを学校に行かせるお金はどうしているのか。
生活する中で見ていると、畑でとれた農産物を売ったり市場で小さなおやつを売ったりしてお金を得ているようだが、意外だったのは、イモ自体も対価として振る舞い、交換でけっこう生活が成り立っていたことだ。
ある日、近所の家でヤムイモの植え付けがあるというので、呼びかけに応じて村の男たちが集った。植え付けと収穫は人手がいる作業なので、互いにヘルプに行くのだ。男たちが畑で働く裏側で、炊事場では女たちが大鍋で煮炊き。サゴヤシ団子を作っている。男たちの昼食だ。
ふと炊事場の隅を見ると山積みのヤムイモとタロイモ。「あれは植えるの?」と聞いたら「食べるんだよ」と言う。昼食だけじゃなく夕飯も作るのかと思いながら、皮むきの手伝いをする。
むいたイモの一部は細かく切って煮てとろとろのスープにし、残りは大ぶりのままゆでて、いつものやつに。表に出ると、サゴヤシ団子を食べ終えた男たちがおしゃべりしながら一息ついている。
と思ったら、先ほどのゆでイモとヤムイモスープがたらいで運ばれてきて、それらも次々平らげていく!あれは夕飯ではなく全部昼食だったのか。その食欲に驚いている私に、「お金があればご飯(米)も振る舞うんだけどね」と耳打ちしてくれたのは、台所を取り仕切っていた女性。働くからそれだけ食べるのだそうだ。
この日は植え付けが早く終わったので、食べたら解散。労賃を現金で渡したのは見ていない。「手を必要としている人がいたら助ける、互いに力を貸し合うのが当たり前だ」と言うけれど、労働が互いに交換され、満腹の食べ物という対価が支払われていたように私には見えた。ちなみに、収穫の時には食べ物に加えて生のイモもお礼に渡されるらしい。
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