昭和を冷たく笑う人たちが日本の分断を招く理由 「共通の記憶」なき私たちに未来は描けるのか?
東洋経済オンライン / 2024年6月30日 13時30分
財政社会学者の井手英策さんは、ラ・サール高校→東京大学→東大大学院→慶應義塾大学教授と、絵に描いたようなエリート街道を進んできました。が、その歩みは決して順風満帆だったわけではありません。
貧しい母子家庭に生まれ、母と叔母に育てられた井手さん。勉強机は母が経営するスナックのカウンターでした。井手さんを大学、大学院に行かせるために母と叔母は大きな借金を抱え、その返済をめぐって井手さんは反社会的勢力に連れ去られたこともあります。それらの経験が、井手さんが提唱し、政治の世界で話題になっている「ベーシックサービス」の原点となっています。
勤勉に働き、倹約、貯蓄を行うことで将来の不安に備えるという「自己責任」論がはびこる日本。ただ、「自己責任で生きていくための前提条件である経済成長、所得の増大が困難になり、自己責任の美徳が社会に深刻な分断を生み出し、生きづらい社会を生み出している」と井手さんは指摘します。
「引き裂かれた社会」を変えていくために大事な視点を、井手さんが日常での気づき、実体験をまじえながらつづる連載「Lens―何かにモヤモヤしている人たちへ―」(毎週日曜日配信)。第13回は「戦後を終わらせるために」です。
昭和のヒットソングに溶け込む「寂しさと温もり」
私はお酒を飲むのが好きだ。家族ともよく居酒屋にいくのだが、ここ数年、あちこちで、聞き覚えのある、なつかしい音楽を耳にするようになった。
私たち団塊ジュニア世代は、人口が多く、年収もほぼピークだ。おそらく飲食店は、「上客」である私たちが喜ぶ「昭和のヒットソング」を戦略的に流しているのだろう。
私にとって、昭和のヒットソングには、寂しさと温もりの両方が溶けこんでいる。だから、そんな音楽を聴きながら飲む酒は、特別な味がする。
子どものころの私は、アレルギー持ちで、食べあわせが悪いとよくジンマシンが出ていた。小学生の途中から母がスナックの仕事をはじめたのだが、生活の変化になじめなかったからか、さらにひどい湿疹に苦しめられるようになった。
直径20センチくらいのふくらみが全身のあちこちに広がる。裸になって背中を鏡に映す。見苦しさに鳥肌が立ち、ひとりぼっちが悲しくて、涙が止まらなくなる……。
そんな孤独な夜に、気をまぎらわせようと聴いていたのが、テレビから流れる昭和のヒットソングだった。私にとって昭和の歌は、陽気だけど悲しみの調べであり、静かだけど唯一頼れる友の声だった。
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