「ソクラテスの毒杯」から西洋哲学が始まった理由 グローバリズム批判は「高貴ないきがり」である
東洋経済オンライン / 2024年7月1日 11時0分
本来であれば格差問題の解決に取り組むべきリベラルが、なぜ「新自由主義」を利するような「脱成長」論の罠にはまるのか。自由主義の旗手アメリカは、覇権の衰えとともにどこに向かうのか。グローバリズムとナショナリズムのあるべきバランスはどのようなものか。「令和の新教養」シリーズなどを大幅加筆し、2020年代の重要テーマを論じた『新自由主義と脱成長をもうやめる』が上梓された。同書にゲスト参加している古川雄嗣(北海道教育大学旭川校准教授)による基調報告をもとに、中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家・作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、古川雄嗣の各氏が、哲学者・九鬼周造を切り口にグローバリズムとナショナリズムを論じた座談会(全3回)の最終回となる第3回をお届けする(第1回はこちら、第2回はこちら)。
『フィールド・オブ・ドリームス』と「荒川道場」
施:中野さんがおっしゃるように、ユニバーサリズムでは抽象的な概念を個別に解釈することを認めるのに対し、グローバリズムは個別的な解釈を一律にならす、という違いがあると思います。私もその2つの使い分けが必要ではないかと考えます。
ただ、どうしても人間は傲慢だから、自分の解釈が正しいし普遍的だと考えて、ユニバーサルな世界のあり方を許容しがたい。だからこそ、人間は完全じゃないし、人間の認識は有限であることを常に意識しないといけない。古川さんがおっしゃっていた諦めの境地というか、そういうものが必要だと思うんですよね。
抽象的な話が続いていますが、具体的な例として、最近の大谷選手の活躍が挙げられます。彼の存在は、アメリカ生まれのベースボールを、アメリカ人からするとわれわれ日本人が、いかに、かなり誤解したうえで自分の国に導入したかを示していると思うんですよね。
つまりベースボールは、アメリカ人にとっては競技のルールだけでなく、仲間や家族の絆、少年時代の思い出といった、まさしく映画の『フィールド・オブ・ドリームス』みたいな文化的背景も意味しています。一方で、日本の野球では、われわれは王貞治に夢中になった世代ですが、彼は一本足打法を生みだすために、荒川道場で日本刀で素振りをしていましたよね。
古川:それで畳が擦り切れて、手は血豆だらけになり、最後に天井からぶら下げた紙がスパっと切れたときに、一本足打法に「開眼」したと。まるで柳生宗厳が無刀取りに「開眼」したような語り口ですよね(笑)。
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