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サブカルチャーは時間遡行をどう描いたのか? SF作品から「時間の流れ」について考える

東洋経済オンライン / 2024年7月7日 19時0分

このゲームの特徴は、至る所に学術用語が使われ、科学的な装いをしていることです。

タイムマシンの仕組みに利用されるのが、カー・ブラックホールです。これは、自転するブラックホールであり、エネルギーを呑み込む一方ではなく取り出せる可能性があるなど、興味深い時空構造をしています。

ブラックホールの内部には、一般相対論の方程式が破綻する特異点(シンギュラリティ)が存在します。カー・ブラックホールの場合、特異点は点ではなくリング状であり、『Steins;Gate』では、そこを通り抜けるようにして、記憶情報を過去の自分に送信します(実現は難しいでしょうが)。

興味深いのは、時間遡行して過去に影響を及ぼすと、「世界線が移動する」と主張される点です。これは、過去に戻ると新たなパラレルワールドに入り込むことに相当し、ドイッチュ流の多世界解釈を想定していると思われます。

多世界解釈では、すべてのパラレルワールドが並存するとされます。しかし、それでは悲劇の起きる世界と起きない世界がともに存在するので、悲劇を回避したことにはなりません。

『Steins;Gate』では、未来から干渉が行われた時点で、一つのパラレルワールドだけが言わば“実在化する”という設定になっています。

その際に情報のパラドクス(起きない出来事の記憶がある)が生じるはずですが、実在しなくなったパラレルワールドの情報を保持する特殊能力(AVG/RPGにおけるプレーヤーの視点?)を主人公が持っているという“言い訳”をしています。

作中で頻繁に使われる「世界線」という言葉は、学術用語の誤用だと思います。

相対性理論で謂うところの世界線とは、4次元時空内部における運動物体の軌跡のことで、世界がどう変化するかを示す道筋ではありません。

ただし、世界全体の状態を超多次元フェイズスペース(と呼ばれる数学的な仮想空間)内部の軌跡として表した「世界の世界線」を指すとすれば、意味は通じます。

『Steins;Gate』の主人公は、過去に戻っても簡単には未来を変えられないという物理的制約のせいで苦労します。この物理的制約は作中で「アトラクタ」と呼ばれますが、これは、初期条件を少し変えても最後にはよく似た状態に収束するようなシステムにおいて、収束する最終状態を表す用語です。

例えば、宇宙空間でガスや塵が凝集する場合、重力などの影響で扁平な渦巻きになるのが一般的ですが、この扁平な渦巻きがアトラクタに相当します。物理学的に見ると、『Steins;Gate』のように、人間が起こす悲劇的な事件がアトラクタになることはありません。むしろ、過去改変を行うとバタフライ効果の方が顕著に表れ、予想もつかない出来事が起きる蓋然性が高いと思われます。

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