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移住10年の学者が推す「出会い」創れる意外な施設 定住者の増加に必要な「人間のつながり」

東洋経済オンライン / 2024年7月7日 10時30分

公民館には社会教育、成人教育の機能が備えられ、公共図書館には図書・資料サービスの提供が期待されることとなった。両者の機能分離は先進国ではめずらしいそうだ。

私自身、祭りをはじめとするさまざまなイベントはもちろん、小さな集会や毎月の部会に至るまで、地区の公民館が地域活動の拠点であることを知っている。住民と住民がつながりあう場所は、公共図書館ではなく、地区公民館だ。

だが、地区公民館を軸とした活動に参加するには、そもそもの話、地域の人間関係に加わっていなければならない。東京からやってきた人たちは、そうした輪に加われないし、加わろうと思っても、自治会に入り、行事のすべてに関わることをわずらわしく思う人も多い。

また、地区公民館は、それぞれの自治会ごとに設置されているから、地区と地区の垣根を越えるような活動につながりにくい。市民的な一体性を育むのではなく、むしろ、各地域の分断性、割拠性の原因となっている。

私や連れ合いにとって、地区公民館は、欠かすことができない施設だ。だが、セクショナリズムに陥るのではなく、地区の垣根を越えたつながりを創造するために、公共図書館を活用することはできないだろうか。

各地区では、自治会や子ども会への参加者の減少が深刻化している。そうであれば、それぞれの自治会が魅力的な取り組みに知恵をしぼるのと同時に、そうした情報の集約の場、出会いのプラットフォームとして公共図書館をいかしてみてはどうだろう。

移住者は自治会活動にすべて参加できなくとも、各地域で行われている魅力的な取り組みやイベントを取捨選択して、顔を出してみればいい。自治会活動だけでなく、市民活動の告知もいいし、外国から来た人たちに日本語教室を、外国の人が母国語教室を開くのもいい。

「自治」の力をよみがえらせる方法

移住者が喜ぶようなニンジンをちらつかせる自治体は多い。大抵はお金の支援で、わが小田原でも、昔は、新幹線通勤者に補助を出していたと聞いたことがある。

だが、元から住んでいた人たちも含めて、そこに住まう人々が楽しめる街を育てていくのが本筋だと私は思う。そうでなければ、よりよい条件を見つけた人たちは、簡単にこの街を離れていってしまうし、古くから住む人たちは新参者に嫉妬心を持つ。

これらは定住問題にとどまる話じゃない。

近年では、地域包括ケアシステムを中核とした「地域共生社会」の推進がうたわれている。だが、コミュニティ機能がどんどん弱まっていくなかで、地域住民に依存した福祉政策に限界があることは多くの人たちが気づいている。

既存の施設や制度を十分に生かしながら、地域の人間のつながりを強めていく。それは、課題を発掘し、自分たちで解決していく<自治>の力をよみがえらせる土台となる。

図書館を通じた<公共性>の創造は1つのアイデアに過ぎない。地区のつながりだけでなく、地区を越えた人と人のつながりを創り、そこで培われた公共性が自治の力を回復させ、地域に活力をもたらす。そんな街づくりをみんなで考えてみてはどうだろう。

井手 英策:慶應義塾大学経済学部教授

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