新型コロナで「4000%超」の収益を得た覇者の正体 「ブラック・スワン」を制した「カオスの帝王」
東洋経済オンライン / 2024年7月11日 11時0分
こうした危機をタレブはブラック・スワンと呼び始めた。ブラック・スワンとは、(突然の市場暴落のように)誰にも予測できなかった極端な事象を指す。昔ヨーロッパ人はスワンはすべて白いものだと思っていたが、その後オーストラリアで黒いスワンが発見された。ブラック・スワンは従来の枠組みから外れた存在、あらゆる既知のカテゴリーや想定を超えた存在である。
1999年の時点ではこれは理論にすぎなかった。タレブとスピッツナーゲルはこの理論を実地に試すために、暴落から巨額の利益を上げるように設計したヘッジファンド、エンピリカを立ち上げた。
2人は自分たちを危機の狩人と呼んだ。エンピリカは史上初の究極のベア型ファンド〔訳注 下げ相場で利益を出す仕組みのファンド〕だった。他のトレーディング会社がほぼすべてブル市場〔上げ相場〕で利益を出していたのとは異なり、エンピリカは熊が洞穴からうなり声を上げて出てきたときにだけ利益を上げる。同社は毎日、株式が急落したときに巨額の利益を上げるポジションを買った。通常は少額の損が出る取引である。市場が暴落しなければ、この取引は価値を生まないからだ。
しかしいざ市場が暴落したとき、エンピリカのポジションにはとてつもない価値が生じた。
タレブはベストセラー作家に
タレブとスピッツナーゲルは2004年にエンピリカを畳んだ。タレブがヘッジファンドの運営に神経をすり減らす日々に嫌気がさしたのと、初めて一般読者向けに書いた著書『まぐれ─投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか』(望月衛訳、ダイヤモンド社、2008年)の成功で執筆に専念したくなったことが理由の1つだった(タレブは1990年代にトレーディングの専門書『ダイナミック・ヘッジング(Dynamic Hedging)』を書いている)。
トレーダー以外の職業は考えられなかったスピッツナーゲルは、2007年にユニバーサで同じ戦略を再起動させ、改良を重ねた。ユニバーサのシニア・サイエンティフィック・アドバイザーの肩書を持っていたタレブは日々の業務には一切関わらなかった。そのかわり、同社は裕福な投資家の関心を惹きつけるために世界的に著名な作家・思想家としての彼の名声を利用した。
顧客をブラック・スワンから守る
2008年の世界金融危機をはじめ、2010年のフラッシュ・クラッシュ、2011年の米国債格下げ、1週間足らずで10億ドル稼いだ2015年の突発的な市場暴落や、2018年のいわゆるボルマゲドンのようにボラティリティが大きく上昇する局面で、ユニバーサは富を築いてきた。この戦略をユニバーサはブラック・スワン・プロテクション・プロトコルと呼んだ。プロトコルの目標は、顧客の投資家をブラック・スワンから守ることである。
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