新型コロナで「4000%超」の収益を得た覇者の正体 「ブラック・スワン」を制した「カオスの帝王」
東洋経済オンライン / 2024年7月11日 11時0分
スピッツナーゲルとトレーダーチームの目の前で、投資資産はロケットのように垂直上昇していった。3月末までには、ユニバーサのブラック・スワン・プロテクション・プロトコル・ファンドは3カ月の収益率4144%以上という驚くべき数字を叩き出していた。スピッツナーゲルの約5000万ドルの投資は、予想を超える30億ドル弱もの利益を瞬時に生み出した。
収益率があまりに莫大だったため、一部の専門家は懐疑的だった。こんな収益率はありえないと言う者もいた。ウォール街で長年リスクマネージャーをしてきたアーロン・ブラウン――ナシーム・タレブの旧来の友人でもある─―は、ユニバーサが暴落に対して投機的な行動を取っているのではないかと疑った。
つまり、スピッツナーゲルが混乱の気配をかぎつけるやユニバーサのポジションに資金を注ぎ込んで膨らませ、収益率を引き上げているのではないか、という意味だ。スピッツナーゲルはユニバーサは絶対に投機はしないと言った。市場で何が起ころうと、ユニバーサは顧客のために常に同じ暴落保護策を維持し、投資戦略をいじり回すことはない。
ブラウンはあまり信じていなかった。
「ユニバーサは否定していますが、開示していないなんらかの予測要素をつかんでいるに違いありません」とブラウンは私に言った。「でなければうまくいくはずがない。あの会社にはもしかしたら秘策があるのかもしれないが、それにしても腑に落ちない。他と比べて成績があまりに良すぎるのですよ」
最後の点はスピッツナーゲルも認めるだろう。
顧みられなかったタレブの警告
ナシーム・タレブがブラック・スワンという概念を普及させたのに対して、ユニバーサは完全にスピッツナーゲルの作品だった。
エンピリカの幕引き後、タレブはブラック・スワンの概念をトレーディングや金融の領域から拡大し、思想家としてもうるさ型の哲学者としてもちょっとした有名人になった。トレーダーではなく科学者、哲学者として名を知られたいというのが彼の宿願だった(とはいっても、ユニバーサとの関わりはタレブに途方もない富をもたらした。ファンドからの収入はベストセラーとなった自著からの収入をはるかに超えていた)。
とりわけ致命的なブラック・スワンとしてタレブが探求した一つの分野がパンデミックだった。2010年に彼は『エコノミスト』誌で、世界は「グローバル化の副産物として、深刻な生物学的パンデミックとサイバーパンデミック〔訳注 ITセキュリティ上のリスクの拡大〕」に直面するだろうと予言した。
『ブラック・スワン』の続編として2012年に刊行した『反脆弱性』で彼は、グローバル化によって地球規模の感染リスクが高まると書いている。「まるで、世界は出口の狭い巨大な部屋のようになり、人々は同じドアに向かって突進している」。
「予防原則」と題した2014年の論文で、タレブと共著者らは「緊密につながり合った地球規模のシステムにおいては必然的に、たった一つの逸脱が及ぼす影響がやがて個別の影響の総計を上回る大きさになる。その例がパンデミック、侵略的外来種、金融危機である」と書いた。
言い換えれば、今日のきわめて移動の活発な超ネットワーク化世界においては、パンデミックのような極端な事象のリスクがかつてなく高いということだ。2020年1月に、タレブはその到来を目にして警鐘を鳴らした。しかし彼の警告はほとんど顧みられなかった。
(訳:月谷真紀)
スコット・パタースン:『ウォール・ストリート・ジャーナル』記者
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