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新型コロナで「4000%超」の収益を得た覇者の正体 「ブラック・スワン」を制した「カオスの帝王」

東洋経済オンライン / 2024年7月11日 11時0分

2020年3月に市場と世界経済を待ち受けていると思われたのは究極のブラック・スワン─1930年代の大恐慌以来の厄災だった。労働者とその家族が自宅に身を潜めると、各国経済は軋みを上げてストップした。数百万人のアメリカ人が突如として職を失った。3月半ばには株式から債券やコモディティに至るまで、あらゆるものの価値が急落していった。

3月16日、混乱が香港からヨーロッパへ、さらにアメリカへと波及するなか、スピッツナーゲルがノースポイントから市場の破綻を追う一方で、ユニバーサのトレーダーたちは徹夜で同社のポジションのマネジメントを続けた。月曜の朝、午前5時頃に数人のシニアトレーダーがオフィスに到着した。室内には穏やかなバッハのカンタータの調べが流れていた。

他の社員はパンデミックの際の就業規則に従い、自宅で勤務した。16人のプログラマーとトレーダー─博士号取得者、コンピュータの専門家、数学者─で構成されるユニバーサのチームは疲れ切っていた。だが休んでいる暇はなかった。波乱の取引開始を乗り切った後、スピッツナーゲルは自家用機に飛び乗ってミシガン州の自宅に近い草地の滑走路から離陸した。午後にはもう、マイアミ市街とその向こうに広がるビスケーン湾のエメラルドグリーンの海を望む、壁一面の窓のそばにしつらえたデスクについていた。

「忘れるなよ、我々は海賊だ! 海軍じゃない!」。スティーブ・ジョブズのセリフ(「海軍に入るより海賊になるほうがいい」)を借用して、彼は時おりデリバティブ・トレーダーの精鋭チームに発破をかけた。

新型コロナは世界の金融システムを激震させた。ダウ工業株平均はこの日13%と、1987年のブラックマンデー以来2番目に大きい1日の下落幅を記録した。債券市場はまったく動かなかった。マネー・マーケット・ファンドからは史上最多の資金が流出した。個人投資家は大やけどを負った。ウォール街のベテランたちもこれほどの惨状は見たことがなかった――世界金融危機のときでさえ。

シティグループの短期信用部門長アダム・ロロスは『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙にこう語った。「2008年の金融危機が自動車事故をスローモーションで見るようだったとすれば、今回のは『ドカン!』。一瞬でした」。

翌週は、頭を揺さぶられるようなボラティリティに市場が翻弄されるなか、小所帯のユニバーサのトレーダーたちはほとんど眠らなかった。多くの者はオフィスのソファかホームオフィスで2、3時間の仮眠を取るとすぐに起きてコーヒーを流し込み、粛々と多額の利益をかき集めた。

「こんな収益率はありえない」

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