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日本に「暇があって、小銭がある人」が減った結果 1980年代まで日本が世界的に目立っていた理由

東洋経済オンライン / 2024年7月12日 9時0分

――国民間で競争が続くと人も国も疲弊しそうです。日本が疲弊せずに再生する上でカギとなるのは。

「コモンの再生」を僕は提案しています。「日本的コミューン主義」と言ってもいい。日本の伝統的な政治思想を淵源とするものですが、違うのは公共財を豊かにすることを通じて非暴力的に、長期的に階級再編を促すという路線を採用していることです。

従来のコミュニズムの革命論は、権力者、富裕者から権力と富を暴力的に奪い、それを民衆に分配するというプログラムでしたけれども、実際には前の権力者たちが所有していたものは多くの場合、次の権力者となった革命家たちの「私財」として占有されてしまい、公共財として共有されることはなかった。

どうすればその落とし穴に陥らずに済むのか。僕が代案として提出するのは、他人の権力や富を力ずくで奪うことによってではなく、市民1人ひとりが、自分の持っているささやかな財を「公共」のために差し出すという形で「公共を再建する」という道です。

権力や富は支配層が独占することができますが、独占できないものがある。それは文化資本です。本を読んだり、音楽を演奏したり、スポーツや武道を練習したり、伝統芸能を稽古したり、宗教的な修行をしたりすることによって人々は知性的、感性的に成熟を遂げることができるわけですけれども、これらはすべての市民に習得の機会を開放することが可能であり、かつほとんどお金がかからない。

「住みやすい社会」に必要なこと

文化資本を獲得して、世界の成り立ちや、人間の本質について深い洞察を得ることには十分な現実変成力があります。時間はかかりますが、市民的成熟を遂げた人が多くなればなるほど、その社会は「住みやすいもの」に変わっていくはずです。

僕は今神戸で道場を開いて、合気道を教えていますけれど、武道の技術と知恵は、権力や財貨と違って、与えても目減りすることがありません。門人たちはその技術と知恵を習得して、次は自分の道場を開いて、自分の門人に伝える。その門人たちはまた……というふうに、いくら贈与しても、文化資本は目減りすることのない無尽蔵の富なのです。

――私たちメディアは個人が共有できる能力などに「スキル」っていう名前をつけて、それでお金を稼ぐことを促している気がしますが……。

スキルで稼いじゃいけないんです。世界の成り立ちや人間の本質についての知にアクセスする機会は、すべての人に無償で提供されなければならない。人が成熟するための道を塞いだり、課金したりしてはいけない。

人が成熟して、世の中が住みやすくなることから受益するのは社会全体なんですから。

倉沢 美左:東洋経済 記者

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