「トランプ氏銃撃」日本で起きた時の最悪シナリオ 日米の「要人警護」の違いから事件を読み解く
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 20時10分
改めて、事件の時系列はこうだ。
壇上で演説していたトランプ氏。銃声が鳴った直後、トランプ氏は右耳を押さえ、すぐにしゃがみ込んで演説台の下に身を隠した。3秒ほどで近くにいたシークレットサービスがその身体に覆いかぶさる。
その後30秒ほどで武装した機動隊員が壇上に上がり、周囲を警戒。さらに30秒ほど待機した後、シークレットサービスと機動隊に囲われたトランプ氏が壇上から降りて、車に乗り込んだ。
安倍元首相のときは、1発目の凶弾が外れたのに、その後すぐに身を隠したり、SPが覆いかぶさったりすることができず、2発目の悲劇に見舞われてしまった。これは銃社会であるアメリカと日本とでの違いでもある。
トランプ氏は現職のときに銃撃された場合の行動指導を受けているはずで、すぐに身を隠すことができた。また、アメリカでは直近警護が常識となっているので、シークレットサービスも機敏な行動を起こすことができたのだ。
防弾チョッキを着ているとはいえ、頭は丸裸の自分の身体を盾にして警護対象者を守るとは、シークレットサービスはまさに命懸けの仕事である。
自らの身体以外にも、2023年4月15日に和歌山県で岸田文雄首相が襲撃された事件では、SPが携行型防弾盾(カバンの形をした盾)を使用する光景が見られた。
今回のような狙撃による襲撃でも、このような道具が有効かといえば、実はそうではない。このアタッシュケース型の防弾盾は日本独特のもので、防弾仕様になってはいるものの、刃物などの接近戦を想定している。他の国では見かけることはあまりない。
銃撃の最中にカバンを開いて掲げていてはまず間に合わないし、警護対象者を覆える面積も少ない。何より、シークレットサービスの鉄則は「自分が盾になる」ということ。防弾チョッキを着た自分たちが盾になるほうが確実で早いのだ。だからこそ、警護対象者の近くに配置されている。
日本のSPもそれが鉄則には変わりない。しかし、安倍元首相の事件では、1m以内で警護し、1発目の銃声を聞いた瞬間にタックルしてでも安倍氏の姿勢を低くさせる(的を小さくする)必要があったが、できなかった。
カウンタースナイパーは銃撃犯に気づいていた?
前述したように、今回の事件は、銃撃後のシークレットサービスの動きは完璧だった。しかし、トランプ氏が銃撃され、死亡者も出てしまったのには、大きな失態が2点あったからだ。
1つ目は、「高所警戒」が杜撰であったこと。高所警戒とは、狙撃犯が潜む可能性がある建物を警戒することである。
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