「トランプ氏銃撃」日本で起きた時の最悪シナリオ 日米の「要人警護」の違いから事件を読み解く
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 20時10分
警護計画は失敗し、民間人の犠牲者も出てしまった。だが、犯人はすぐに無害化することができた今回の事件。では、日本で同じようなことが起こった場合、どうなるだろうか。
残念ながら今回のようにスムーズに鎮圧できるかといえば難しい可能性がある。日本では人を撃つということに対して、抑制的だからだ。犯人を生きて捕らえよという意識が強い。
拳銃を使用できる条件も厳格で、警察官職務執行法第7条では「犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては〜」と、発砲できる条件が定められている。
普段、銃を使用する機会のない警察官が瞬時に判断できるかというと疑問だ。実際、筆者も23年間の警察官人生で発砲したことは一度もない。
海外の警察官にこのことを話すと「信じられない」と驚かれる。向こうでは人に銃口を向けて引き金を引こうとしていたら、撃っていいのは常識だからだ。
古い事件になるが、「瀬戸内シージャック事件」(1970年)では、広島県警のスナイパーが犯人を狙撃し、人質を救出した。結果的に犯人はこれにより死亡。「狙撃は正当だった」とされるも、バッシングの向きもあり警察官は悩みに悩んで退職したという。
警視庁では、機動隊の銃器対策部隊とSAT(特殊急襲部隊)、SIT(特殊事件捜査係)にスナイパーが所属しているが、彼らであっても実際の発砲は躊躇うかもしれない。
そもそもアメリカと違い、日本ではVIPの警護に必ずしもスナイパーがつくわけではない。安倍元首相の事件時にはついていなかったと思われる。
ついたとしても、アメリカのように屋根の上でスナイパーが銃を構えて警戒している図を見ることはない。
スナイパーを剥き出しの状態で配置することは「撃つぞ」というアピールになるが、日本では前述した通り、VIPの警護では物々しい雰囲気を避ける傾向にある。基本的には見えないところで待機していて、銃器を構えているところを見せることはない。それゆえ急な対応は難しいだろう。
日米で起きた、VIPを襲った悲劇。事件を受けて、警察庁は14日、要人警護の徹底を都道府県警に指示した。教訓は生かされるだろうか。
松丸 俊彦:セキュリティコンサルタント
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