NYタイムズ「7年で売上半減」から劇的復活した訳 老舗企業をV字回復させた「すごいDX処方箋」
東洋経済オンライン / 2024年7月17日 11時30分
また、経営トップですら、「技術は旧来の商品を提供するための新しい手段のひとつにすぎない」という考え方に囚われ、当時のNYタイムズが掲げるDXのビジョンは、中核事業の「デジタル化」、つまり文字どおり、紙媒体に毎日掲載されるものと同じ記事を、最新技術を介して読者に届けることでした。NYタイムズの将来は、何年もの間、過去の商慣習に縛られた状態となってしまいました。
デジタル革命や他社のデジタル化が進むにつれ、NYタイムズの不十分な対応が、ビジネスに深刻な悪影響をもたらしはじめました。デジタル記事で権威ある賞を受賞した先進的な新聞社であったにもかかわらず、優秀なデジタル人材が他の新聞社に流れてしまいます。デジタルネイティブの新興メディアも、インタラクティブなスタイルでSNSを駆使しながら、検索エンジン用に最適化されたコンテンツを配信し、積極的に若い読者を惹きつけることで、NYタイムズを追い抜きました。
ついには、紙媒体広告からの収入は激減、デジタル広告も期待したほどの利益を上げることはできず、長期にわたる業績低迷に陥ります。総収益は2006年から2012年まで毎年減少し、わずか7年間で52%も減少しました。
DXに失敗する企業の共通点
NYタイムズの最高経営陣の依頼で行われた綿密な調査の末にまとめられた「イノベーション・リポート」という内部報告書の中で、自社を、将来のデジタル化をめぐって独り悪戦苦闘している組織と評し、次のように総括しました。
「自分たちにとって快適で慣れたやり方の職場環境ができあがってしまい、怠慢につながった。真にチャレンジしなければいけない課題を避け続け、目指すべき姿やどう変わるべきかといった現在および将来の大きな課題に向き合わない姿勢に転じていった」
NYタイムズが直面した課題や危機は、現在、変革を推進している全ての伝統企業を直撃しています。まさにデジタル・ディスラプションの最中で新興企業が台頭する中で、新時代への適応に苦戦して行き場を失った多くの伝統企業と同様、NYタイムズも、将来を見据えたデジタル改革のロードマップを用意しておらず、無駄な努力に何年も費やす結果となり、この惨状を招いてしまったのです。
最悪の状況から一転、タイムズにとって2度目となるDXの成果は、実に驚異的なものでした。まず、「デジタル収益を8億ドルにする」という野心的な目標を1年前倒しで達成し、さらには「2025年までに購読者数1000万人」という追加目標も、予定より4年も早く達成したのです。なかでも注目すべきは、「デジタルの収益が紙媒体の収益を上回る」「購読料が広告収益を超える」という2つの重要目標についても、ともにクリアしたことです。
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