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死期を悟った50代女性が日記を他者に託した意味 末期がんを家族に告げずに逝く覚悟を決めた

東洋経済オンライン / 2024年7月17日 11時0分

花柄の手帳に日記を綴るようになったのはその頃からだ。主に綴るのは、洋裁と恋愛に関すること。当時交際していた会社の先輩・Uさんとのすれ違いを切なく吐露した翌日に、最近は後輩のK君が気になっているとこぼし、また別の日には、勢いで同期のSとデートすることになったと悩ましそうに語っている。1990年11月の日付けで書かれた日記にはこうある。

<昨日プリティウーマンを見る
 マイフェアレディに似ている様な気がした.
 ジュリア・ロバーツがかわいかった
 シンデレラ物語みたいな夢物語だと思う.
 素敵な洋服がきられて、きれいになって、ハッピーエンド
 やっぱりハッピーエンドで終わらなきゃつまらないよね.>

当時25歳。Mさんの筆を通して、まるでトレンディードラマの世界のような時代の空気を感じた。

いろいろな登場人物が現れるものの、職場や生活環境が変わっても頻繁に登場する男性はUさんだけだった。別れを告げた1週間後に、Uさんからの電話がこないと怒り、専門学校を卒業してアパレル業界に転職した後に「もう会わない」と宣言し、年明けにはUさんからの年賀状が届かないことを嘆いたりしている。記事冒頭に挙げた写真にあるポケベルの愚痴はUさん絡みのものだ。

やはり本命はずっとUさんだったのだろう。夢での再会も含めて、1997年頃までの日記にはUさんの影が見える。それでも、転職を機に上京し、洋裁を極めるために海外留学を目指すようになる頃には完全に吹っ切れたようだ。

上京後は日記のペースが数日に1回、数週間に1回と落ちていったが、残された断片からは一心不乱でスキルアップに励む日々が覗く。日本は不況の嵐にのみ込まれ、アパレル業界にも厳しい風が吹いていたが、仕事に関するネガティブな内容は一切残していない。

花柄の手帳は2004年10月の日付けで終わっている。留学を終えて帰国し、地元で洋裁店を営むようになっていた時期だ。39歳。留学から地元に戻るまでの経緯はこの日記帳からは辿れないが、2007年から始めた2冊の5年卓上日記=2007~2011年版と2012~2016年版を読み込むと、少しずつ当時のピースが埋まっていく。

留学先での暮らしを断念

<昨晩夢にうなされ 夢がこわくて母におこされる
 4:00 DにTel. 泣いてしまった.
 (略)
 やはりA(※筆者注:洋裁店のオーナー)の所で働きたかったのだ.>

(2010年3月)

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