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トランプがユダヤ系富豪から巨額献金される事情 タブーを破って米大使館をエルサレム移転

東洋経済オンライン / 2024年7月18日 16時0分

ユダヤ系の米作家フィリップ・ロスに『プロット・アゲンスト・アメリカ』という小説があります。「アメリカへの陰謀」という意味です。1940年の米大統領選挙で、ローズヴェルトではなく、ヒトラーと親交のあった大西洋単独無着陸飛行の英雄リンドバーグが大統領になっていたら、という仮想歴史小説です。

リンドバーグは孤立主義的な「アメリカ第一主義者」でした。小説では、リンドバーグ大統領がハワイで近衛文麿首相と会談し、大日本帝国の「東亜新秩序」を承認します。同じ「アメリカ第一主義」を唱えるトランプが2015年、大統領選出馬を表明すると、ロスの小説は未来を先取りしていたと話題になりました。

ユダヤ系アメリカ人の約7割は、大統領選挙で伝統的に民主党候補に投票します。トランプはこれが不満で「アメリカにはイスラエルを愛さないユダヤ人がいる」「ユダヤ人のサルツバーガー家が経営するニューヨーク・タイムズはイスラエルを憎んでいる」「福音派の方がアメリカのユダヤ人よりイスラエルを愛している」と発言しました。ユダヤ系アメリカ人はこうした言葉に反ユダヤ主義の響きを感じ取り、不安を覚えています。

福音派の終末論では、ユダヤ教徒の聖地再集住後にイエスが再臨し、大戦争や大地震など「大いなる苦難」に見舞われます。ユダヤ人の一部は改宗してキリスト教徒になり、改宗しない多くのユダヤ人は死ぬとされています。福音派の黙示思想には、キリスト教の生みの親であるユダヤ教徒をキリスト教に改宗させたいという願望が秘められているのです。戦後の福音派の巨人グラハム師は1960年にイスラエルを初訪問した際、ユダヤ人への宣教はまったく意図していないと強調しました。

ユダヤ人の側はキリスト教徒の福音宣教を警戒しています。トランプが親イスラエル政策を取ったのは福音派への配慮が大きな理由でした。ユダヤ系アメリカ人がトランプへの警戒心を解かないのは、ユダヤ人の「改宗か死」を預言する神学に立つ福音派を信じきれないことに一因があります。

船津 靖:広島修道大学教授

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