「定職に就けない」40歳男性が退職繰り返す"事情" 「仕事をしたい。社会とつながりたいんです」
東洋経済オンライン / 2024年7月19日 11時0分
臨機応変な対応やマルチタスクが苦手だという自覚のあるダイゴさん。取材前に「事前に質問事項を教えてほしい」と頼まれたほか、取材中は懸命にメモを取っていた。ダイゴさんなりに定型発達がつくったルールになじもうと努力していることが伝わった(筆者撮影)
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。
今回紹介するのは「ADHDと広汎性発達障害を抱えている」と編集部にメールをくれた40歳男性だ。
毎朝、職員全員で絶叫させられる
「必ずやる! できるまでやる! 俺がやる!」
今から20年近く前、大学を卒業したダイゴさん(仮名、40歳)が就職したのは、民営化前の日本郵政公社(現在の日本郵政グループ)だった。配属されたのはかんぽ生命保険の営業職。出社早々、ダイゴさんを絶望的な気持ちにさせたのは、毎朝、職員全員で絶叫させられる、この唱和だった。通称“やる唱和”。
周囲とコミュニケーションを取るのが苦手で、子どものころはよくいじめられたというダイゴさんにとって「集団でのいじめを思い出させる体育会系の空気は苦手でした」。
“やる唱和”の是非は置くとして、職場では過剰な営業ノルマも常態化していた。成績のふるわない先輩職員が上司から「辞めたほういいんじゃないか」「こんな成績じゃ、局長が表彰されないだろう!」と怒鳴りつけられる姿をたびたび目にしたという。
新人のダイゴさんにも、保険商品の説明に行くためのアポイントを1カ月で3件取るというノルマが課せられた。成約ではなく、商品説明のためのアポイントである。しかし、ダイゴさんは1件の約束も取り付けることができなかった。その結果、上司から呼び出され「この仕事、向いてないだろう。商品のこと勉強する気、ないよね。辞めるしかないんじゃない?」と責め立てられた。結局1カ月あまりで退職した。
「電話帳で調べて電話をかけるのですが、まったく話を聞いてもらえない。きつかったです。(退職については)強要されたというよりは、自分でも無理だと思ったので辞めました」
このころ、私は民営化を控えた郵政職場の現場をたびたび取材していた。ダイゴさんの言う通り、ノルマは保険商品だけでなく、年賀はがきや暑中見舞い用はがき、ふるさと小包など多岐にわたり、多くの職員が自腹でノルマを達成する「自爆営業」を強いられていたのは事実だ。それに伴うパワハラ行為も横行。自殺した職員の遺族に話を聞いたことも、1度や2度ではない。
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