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奈良公園の「シカの糞」観察続けた60歳彼の半生 糞虫に魅せられ45年、退職金で博物館を設立

東洋経済オンライン / 2024年7月21日 12時30分

「奈良公園がフンまみれにならないのは糞虫がいるから」とまとめて学園祭で発表。まさに寝ても覚めても糞虫の世界に没頭し続けた日々だった。

そんな昆虫同好会の様子を見た生物の先生は、理解を示してくれ応援してくれるように。生物教室にある水槽などの道具を使わせてもらい、犬のフンと鹿のフンを持ち込んで、糞虫はどちらを好むか調べる実験などを行っていた。

「やはりフン、ウンコですから家でなかなか実験できません。かといって学校ならいいわけではありませんが、生物教室は普通の教室と反対側の建物にあったのでそっと実験させてもらっていました。他の生徒はどういう目で見ていたかはちょっとわかりませんけどね(笑)」

ときには24時間ぶっ通しでフンを観察し続けたこともあり、そうした地道な活動を続け、日本学生科学賞奈良県知事賞を受賞したことは大きな誇りとなった。

第二の人生でも好きなことを貫く

大学進学後は農林中央金庫に就職。しかし、糞虫活動はもはや生活習慣になっていたため、大人になっても途切れることはなかった。

「転勤族でしたが、行った先々で虫捕りは続いてましたね。国内だけでなく海外は6年ほど中国勤務だったこともあり、そのときは楽しかったですよ。新疆ウイグル自治区に行くと、あそこはヒツジの放牧をしてますからね。あのときはたくさんの種類の糞虫が捕れましたよ」

各地で糞虫を採集しては自宅の標本箱に収めていく。自分で採集したものは、国内約50種類、海外を含めると約80種類。寄贈や購入を含めると全部で約300種類。そうしていくうちに、標本箱に収められた糞虫は1000匹以上にもなった。

中村さんに再び大きな転機が訪れたのは、45歳、会社のライフプラン研修に参加したときのことだった。

「第二の人生を考えるきっかけになりまして。その結論は『好きなことをしていこう』でした。そう思ったとき、自分には糞虫しかないと思い、脱サラして糞虫館を作ることになったんです」

かねて、奈良市内には自然や生き物を対象とした施設や博物館がないことも気にかかっていた。奈良には神社仏閣とともに、豊かな自然が残っているからこそたくさんの糞虫がいる。そして糞虫はせっせとシカのフンを分解して土に還し、奈良の景観維持に大きな貢献をしてくれている。このことをもっと知ってほしいと、中村さんは考えていた。

糞虫の施設を作るのであれば、“糞虫の聖地”である奈良公園の近くでなければ意味がない。近くに2階建ての古家を見つけ、改修して博物館にすることにした。

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