1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

理想の姿を手に入れた33歳彼女が困惑した理由 小説『コンプルックス』試し読み(3)

東洋経済オンライン / 2024年7月22日 18時0分

となると……、

この日の評価者にあたる4人中4人が祐子を見ていたことになるわけだ。この大圧勝に祐子は心の中で歓喜した。

“YES!! EASY FIGHT!!”

格闘家が自身のコーナーで勝利の雄叫びを上げるように祐子の気持ちは昂っていた。

4人の中の1人の男性が早い者勝ちであるこの状況に気づいたのか手を上げてミチルを呼び出した。その男性はツーブロックのオールバックに清潔感のあるヒゲを蓄え、黒い肌がその濃い顔とマッチしているお色気むんむんのイケメンだった。

バルクアップされたカラダがハイブランドのスウェットからでもわかる逞しさを兼ね備えていた。

「こっちの世界ではこれが私の日常なのか」

「ミチルさん、あそこにいるお人形さんみたいな彼女? 隣どうかな? 悪いけどちょっと聞いてきてよ」

そんな注意して聞き耳を立てずともハッキリと聞こえていたその声に祐子の興奮はさらに高まった。笑顔を浮かべながら目でサインを送るミチルが祐子の方へと近づいていく。

「ゆうこりん、いつもゴメンね。たまには1人でゆっくりさせてあげたいんだけど今日も相席のご指名だよん。どうする!? もちろん断っても良いけど、あの人、木村貴文さんって言ってジムの経営で成功されてるし、それだけじゃなくてパーソナルトレーナーとしても超有名人。

動画SNSのi Tubeとか見たことない!? 多分100万人ぐらい登録者がいたはずよ。あっ、でも、もちろん嫌味のないスカッとした性格だし個人的にはオススメよ」

祐子の胸はますます小躍りをした。

“選べない側”から、“選ぶ側”になっているこの状況に。

「こっちの世界ではこれが私の日常なのか」

思わず、そんな言葉が口からこぼれた。

しかしこの後、祐子は木村貴文のお誘いをキッパリと断ったのである。なぜなら、祐子は、「男の誘いを余裕しゃくしゃくで断る」という体験もしてみたかったからだ。

今の祐子にはそれをする余裕があった。

「ミチルさん、ゴメン。正直私もめっちゃタイプなんだけど今日はあんまり時間がないのよ。だからまた今度ここで偶然出会ったらその時は必ずご一緒しましょう。そう伝えて貰えないかな?」

優越感たっぷりに祐子は、そうミチルに伝えるのだった。

「今日もお会計はイイわよ」

「あなた、本当に可愛いだけじゃなくて駆け引きが上手よね。普通の女なら絶対に飛びつくわよ。正直滅多に来ないVIP客だからゆうこりんには協力して欲しかったけども無理は言えないからね」

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください