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理想の姿を手に入れた33歳彼女が困惑した理由 小説『コンプルックス』試し読み(3)

東洋経済オンライン / 2024年7月22日 18時0分

それがこちらの世界では、年商5億円の会社経営者の婚約者の章浩と婚約が破談になって、職場に行きづらい状況になって辞めたことになっている。

そのことを祐子が知ったのは昨日の夜の美羽からのメッセージがきっかけであった。

石井美羽33歳。

そう、祐子のネイルサロンでの同僚。かれこれ5年以上の付き合いである。

《ゆうこりん大丈夫? しばらく連絡するの控えてたけどやっぱり心配だから連絡しました。ちゃんとご飯食べてる!? 章浩さん酷いよね。あんなに3年間ずっとゆうこりんにゾッコンな態度をとっておいて……

“君と結婚しても上手くやっていく自信がない”って言ったんだって!?

章浩さんの友達の大樹君に聞いちゃったよ。ほら、あの時章浩さんを合コンに連れてきてくれた不動産の売買してる長身のイケメンね。

あり得ないよね。そりゃ年商5億の会社経営してたら、結局、女をとっかえひっかえで相手を決めきれないのか知らないけど、手の平返しも良いところよね。

ていうかゆうこりん水臭いよぉー。そんな時こそ頼って欲しかったのに。

とにかくオーナーも退職届は預かっておくカタチにしとくって言ってるから気持ちが落ち着いたら戻っておいでね。

また元気になったらご飯行こうね。》

このメッセージを見て祐子はゾッとしていた。

婚約者のスケールは違えど、鏡の中の世界でも全く同じようなことが起きていたなんてとてもじゃないけれど信じられなかった。

こちらの世界でもどうやら美羽が開いた合コンをきっかけにその章浩という経営者の男と出会って結婚を前提に付き合っていたようだった。

章浩という男は一体、どんな人物なのだろうか?

どういう理由でこちらの世界のこの最強の美貌を纏った祐子から心が離れてしまったのだろうか?

そんな疑問が、祐子の頭の中をグルグルグルグルと支配した。

不思議と会ったこともないその章浩という経営者の男に別れを告げられた悲しみが自分の感情のように溢れ出てきた。

“何かの間違いではないか!?”

“なんで!? こんなに私は美人なのに!?

あり得ない”

何度も鏡を見ては、自分の姿を確認し、やはり美しいその姿に、

“何かの間違いではないか!?”

と祐子は何度も何度も疑った。

こちらの世界にやってきて間もない頃の鏡の中の自分に陶酔するような感覚がすっかりなくなっていることに祐子は気づいた。

しかし、その理由までは祐子は気づかなかった。

つまり、それがネガティブなものであるにせよ、ポジティブなものであるにせよ、様々な前提が「視覚」という情報を歪曲しているということに。

そして祐子は、「あの陶酔した感覚を取り戻すには“婚約者に捨てられた女”という前提をもう一度覆すしか方法がない」と、そんな思い込みにハマっていくのである。

(※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません)

クノタチホ:セラピスト

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