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理想の姿を手に入れた33歳彼女が困惑した理由 小説『コンプルックス』試し読み(3)

東洋経済オンライン / 2024年7月22日 18時0分

そう言うとミチルは腰をフリフリ奇妙な歩き方をしながら、色気たっぷりな成功者の男の席に行き、祐子の言葉を伝えた。

その伝言を受け取った木村貴文はニヤリと祐子の方を見て会釈をした。そんな会釈に対して、祐子もまた、少しだけ口角を上げ、会釈をするのだった。

内心、祐子の胸はやはり、小躍りをしていた。いや、小躍りどころの騒ぎではなく、フラメンコを踊りながら、同時に社交ダンスを踊るような、そんな気分だった。

この店でやりたかったことはやり尽くせたこと。そして、木村貴文への伝言が嘘にならないようにすること。そんな2つの目的を果たした祐子は席を立ち、レジへと向かった。

ところが、ここでもまた、自分が美女になったことを自覚させられる出来事が起こるのだった。

「今日もお会計はイイわよ。木村さんが出してくれるって。本当、ゆうこりんは自分の財布でここのお代払ったことないんじゃないの!? でも助かるわ。ゆうこりん目当てで通って下さってるお客さんも少なくないからね。またいつでも来て。あっ嘘。なるべく早くまた来てね」

この対応に祐子の足は思わずステップを踏んだ。

美人は美人であるだけで周りがお金を払おうとしてくる。もちろん男はそうやって払うことによって見返りを交渉する権利を買っているわけだが。

そこで多くの美人は出してくれるお金の量に対して見返りが少ない気前の良い男を探している。この求められるリスクと貰えるリターンの駆け引きを楽しめるのは美人ならではのことなのだと祐子は思った。

祐子は木村貴文に軽く会釈をし、店を出た。

美人になったら体験してみたいことリストの1つ目がアッサリと叶ったことに感動を覚えつつ自宅までの帰路につくのだった。

もちろんその帰り道、周りの男性からの熱い視線を浴びながら。そして、自分自身が生まれ変わったような感覚を覚えながら。

祐子が鏡の世界にパラレルトリップしてきて一夜が明けた。完璧な美貌を手に入れて幸せいっぱいの気持ちで眠れるはずだった。しかし、一睡もできなかった。

同僚からのメッセージ

美人になって初日の夜を迎えた祐子は一晩中“あること”を考えさせられるハメになったからだ。

鏡の向こうの世界ではネイリストの仕事を1週間前に退職した祐子。どうやらこちら側の世界でも似て非なる理由でちょうど1週間前にネイリストの仕事を退職していたことを祐子は知ったのである。

年収500万円の婚約者の友哉と婚約が破談になって、職場に行きづらい状況になって辞めたのが鏡の向こうの世界。

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