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苦手な「EBPM」に官僚が本腰を入れる真の狙い 「データで政策効果を検証」ができない政党政治

東洋経済オンライン / 2024年7月23日 9時0分

政策のインプットを表す変数とそのアウトカムを表す変数があって、2つの変数の間にどのような関係があるかについて、一方が増えるときに、他方が増えるとか減るとかという関係を統計学的に確認することはできる。

しかし、それは相関関係であって因果関係ではない。2つの変数の間に正の相関関係があるからといって、一方の変数が原因で、他方の変数が結果という関係にあると断じてはならない。

しかも、2つの変数以外の別の変数が作用して、一見するとその両者には強い相関関係があるように見えても、実は「見せかけの相関関係」にすぎない場合もある。

政策対象者だけに変化が生じれば「効果アリ」

因果関係を分析するには、そうした分析が可能な形でデータが入手できなければならない。典型的なケースでは、政策の対象となった企業や個人と対象となっていない企業や個人のデータがそれぞれ入手でき、かつ政策を講じる前と後のデータがそれぞれ入手できると、因果関係の分析が可能になるケースがある。

政策の中には、その対象を絞るケースがある。そうしたケースには、政策を講じる前後の変化と対象者と対象外の者との違いに着目して、その政策にしかるべき効果があったか否かを確認できる。

例えば、ある政策を講じる前は、対象者も対象外の者も違いはなかったものの、政策が講じられた後に対象者にだけある変化が生じたのに対して、対象外の者にはそうした変化がまったく生じていなかった、ということなら、その変化はその政策によって引き起こされたと考えられる。

こうした動きをデータで分析できれば、因果関係を確認することができ、当該政策を原因としてしかるべき成果という結果を引き起こしたという立論が可能となる。こうしたケースならば、まさにEBPMといえるものである。

しかし、いつでもこうした形で因果関係を突き止められるとは限らない。特に、全員を対象とした政策は、対象外となる者がいないため、対象者と対象外の者との間の違いが区別できず、当該政策が原因なのか他の要因が原因なのかが判別できない。

今後策定予定の「EBPMアクションプラン」では、前述のように、収集データや検証方法も視野に入れており、さらなるEBPMの強化が期待される。

こうした取り組みは、なぜ今唱えられているのか。官僚の無謬性があって元来不得手であるEBPMを、ここまで強力に推すからにはワケがあろう。

そのワケは、予算において無理筋な政治的要求を断るための効果的な手段だからだとにらむ。

エビデンスを示せるのは政治家より官僚

コロナ禍では、与党側から過剰な予算要求が横行した。官僚側もそれに悪乗りした面もあるが、無理筋な予算要求を効果的に止める手段がなかった。

しかし、EBPMでは、提案する政策にエビデンスがないなら却下される。EBPMでは、エビデンスを解明する分析を必要とするが、今のところわが国の政党にはそうした機能があまりなく、むしろ中央省庁にその機能がある。

最後の関門は、EBPMについての首相官邸の理解であろう。

官僚がEBPMに則して政策に効果がないと否定しても、「自らの政策に反対するのであれば異動してもらう」などとして聞き入れなかったり、政策の実施を事務方に事前の相談もなく突如決めたりするような首相官邸の姿勢である限り、誰が総理大臣になっても、わが国にEBPMは定着しない。

EBPMによって、国民のためになる政策が選りすぐられてゆくことが、今求められる。

土居 丈朗:慶應義塾大学 経済学部教授

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