現代社会では「自分らしさ」が不要とされる理由 ビジネスの論理に飲まれないための「ノイズ」
東洋経済オンライン / 2024年7月25日 11時0分
だから、準備されたような言い方をしないといけない。「私はリーダーシップがありますが、それは独りよがりなのではなくて、みんなの意見を聞けるリーダーです」と。
三宅:でも、それが一番求められているっていうことですよね。みんなの意見が聞けるリーダーか。本当にそうならすごいことです。
舟津:でも、実際はほとんどの社会人にはリーダーシップもないし、他人の意見も聞けません(笑)。そんなリーダーは大人の社会でもそうそういません。それでも社会は回っている。
三宅:それが求められているから、そこに合わせるだけで、自分が実際どうかは関係ないということですよね。自分自身をないがしろにしすぎて、少し切なくなってしまいます。
舟津:割り切って「そんなもんだ」と思ってやれればいいんですけどね。社会の中でつまらないことってたくさんありますし、就活もつまらない側面もあるけど、やらなきゃならないからやるぐらいの半身の気持ちでいいと思います。
三宅:自分らしくない、それっぽいロールプレーみたいなことに全乗っかりしすぎると、いびつになってしまいますからね。
例えば私がよくやる文章講座では、「ありきたりな言葉を使ったら、それに修正をかけるようにしましょう」と言うんです。本の感想を書くとき、「泣ける」とか「考えさせられた」みたいなありきたりだけどつい使っちゃう言葉をNGワードにして、じゃあ他に何を使うか考えよう、と。
就活や仕事でもきっと同じで、それっぽい言葉や振る舞いばかりでは、自分らしさを消すことになり、しんどいだけです。その点に社会は気づいてほしいと思いますね。
ノイズを楽しむことはどんな生き方とも両立できる
舟津:そうですね。ただ、読者の方に誤解のないように念のため言っておくと、私は別に「就活をするな」って言いたいわけではないんです。その努力を否定はしないし、できない。伝えたいのは、就活にコミットする必要はあるなかで、ノイズの魅力を見つける意識を持っていてほしいということです。
もし就活に全ベットしたとしても、その中でノイズの魅力を見つけることは両立可能だと思っています。例えば、自己分析をするなかで、仕事に関係なく本当に興味のあることや好きなことが見つかったり、創業者の記事や書籍を読むなかで、完璧でない側面を知ったりすることはあるのかなと。どんな生き方や選択をしても、その中でノイズの魅力を見つけることができる。それは、別の生き方を否定しなくても成立する努力だと思います。
本の読み方も同じで、役立つところだけ3行でまとめてもつまらないですよね。ノイズを楽しむ、ノイズの魅力を見つけていくというのは、少し注意の向け方を変えるだけでできることですし、学生でもやりやすいことだと思います。
三宅:ノイズの魅力を見つける能力って、続けていけばどんどん上がる気がします。それが余裕とか、全身全霊になりすぎないとか、真面目になりすぎないことにつながるんじゃないですかね。ノイズが魅力であることをもっと発信していきたいです。
舟津:そのとおりですね。
三宅 香帆:文芸評論家
舟津 昌平:経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師
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