冴えない「パナソニック」は何が欠けているのか 「笛吹けども踊らず」に陥ってしまっている背景
東洋経済オンライン / 2024年7月25日 13時0分
現在の大企業を見ていると賢い人だらけだ。特に社外取締役は自らも賢いと思っている自己肯定感が強い人が多い。トップも総じて秀才ばかりだ。だが、経営者は賢すぎる印象だけでは「支持率」は高くならないだろう。硬軟の頃合いが大切なのだ。
経営者たるものすべてのステークホルダーと適度な距離を取らなくてはならないが、一方、人間的な親しみやすさと「人たらし」とまで揶揄されるほどの表現力が求められる。筆者は多くの著名経営者と会う機会に恵まれたこともあり、こういう質問をよく受ける。
「どのような経営者が理想的だと思われますか」
筆者は冗談を交えてこう答える。
「ストーリーテラーであること。ビジネス誌や新聞の経済記事にあるような事実だけを語っているだけではダメです。夢が膨らむ物語を演出しなくてはなりません。気の利いたユーモアも必須です。引き締まった賢そうな顔をしていても、笑うと歯が1本欠けているぐらいがいいでしょう」
日本企業でも株主重視経営のもと、経営者は生殺与奪権を株主に握られ、市場と対話できる優等生が高く評価される傾向にある。その結果、株式投資指標を頻繁に口にするようになってきた。「経営者の日常会話」がIR用語になりつつある。つまり、事実だけを淡々と語る話法(レポートトーク)である。
松下幸之助氏が重視した「合理性を超える見えざる力」
この点について、「松下幸之助氏は、どのような従業員でもわかる言葉で平たく語るストーリーテラーでした」と問題提起すると、楠見氏はこう答えた。
「創業者の頃は、そのような言葉(株式投資指標)がなかったから、使われなかっただけです」
はたして本当にそれだけが理由だったのだろうか。経営においては極めて合理的だった松下氏が宗教に興味を示しヒントを得たのは、合理性を超えた見えざる力に価値を見いだしたからだろう。
レポートトークで結ばれた関係は、関係する合理的理由がなくなればあっさりと切れる。
危機感なき組織文化を打破しようとして、パナソニック、および傘下の事業会社は、前社長(現・津賀一宏会長)時代から執行役員クラス以上のポストに外部人材を積極的に登用してきた。
ところが、短期間で退任した人が数名いる。元電通マンで、あきんどスシロー、ピーチ・アビエーション、PwCコンサルティングなどを経て2020年2月にパナソニックに入社し執行役員ブランド戦略本部長を務めた森井理博氏もその1人。3月末にわずか4年でパナソニックを去り起業した。
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