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「原爆のキノコ雲が高校の校章」町の住民が許す訳 映画「RICHLAND」で描かれる米国の町の光景

東洋経済オンライン / 2024年7月26日 14時0分

――さまざまな立場の人が語っています。原爆を否定しない人も多いですね?

映画の中心的なテーマは、人々が暴力的な歴史にどう折り合いをつけていくか、ということです。自分の愛している場所が、日本のみならずアメリカの先住民にも被害を及ぼしていた。

郷土愛、誇り、被害という矛盾の中に身を置くのはどういうことなのかを考えるために、町の保守派の人たちの声を聞きました。最初から原爆に反対する映画をつくろうと思っていたら、全然違うアプローチになったと思います。

核推進派と反対派というスッキリとわかりやすい二項対立を描くのではなく、単純に原子力産業を批判する映画をつくろうとしたわけでもない。「より居心地悪く、人との距離が近く、アンビバレントな空間」を目指した。立場や背景の異なる人が安心して話せて、観客がその声を聞ける「場所」が映画の中につくられている。

――どの人もリラックスして話しているように見えますが、他所から映画の撮影に来て、警戒されませんでしたか?

確かにこの町はネガティブなイメージで見られることが多く、批判的に取り上げるジャーナリストや反核活動家が数多くいます。

私は町を批判しに来たのでも、反核映画をつくりに来たのでもなかったので、そのことを相手にしっかり伝えました。それに私は4年半の間、町に何度も通っていたので、「あの人、また来てるわ」「あの人は大丈夫」と信頼してくれたのかもしれません。

――映画には原爆の被害の映像が使われていません。入れる選択肢もあったのですか?

入れようか、入れまいか、ずいぶん悩みました。原子炉国定歴史建造物のツアーで原爆の被害の映像がまったく示されていないことが気になっていましたし、アメリカの観客は見るべきだという強い思いもありました。

ただ、日本の観客にとって、アメリカ軍のカメラで撮影された被害の状況を見ることはトラウマを重ねることになるのではないかと思ったのです。

また、この映画は場所を大事にしています。ハンフォードとリッチランドのみで撮影したので、それ以外の場所の映像を入れることには違和感がありました。

――詩や音楽が織り込まれ、放射能に汚染された大地が詩的に描かれているのも印象的です。

ランドスケープはこの映画の中心的な登場人物の1人だととらえています。というのは、その土地にいるように感じて、体験してもらうことが大事だからです。

大地は現代までの歴史をすべて見つめてきました。何を見てきたのかを想像しながら観て、土地とそこに根付いているものについて考えてほしいと思いました。

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