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「日銀利上げ」の確率を過小評価すべきではない 「高圧経済」完全脱却を市場に納得させられるか

東洋経済オンライン / 2024年7月26日 19時0分

その結果をみると、①自然利子率(青色)は米欧とも低下傾向(=潜在成長率の低下)、②コロナ禍前の自然利子率と実際の実質金利(黄色)との関係は、ユーロ圏でははっきりと実質金利が自然利子率を下回り緩和的であったのに対し、アメリカではおおむね両者が同じ動きをしており意外にも金融政策は中立的であったことを示唆、③足元ではアメリカ・欧州とも実質金利が自然利子率を上回り引き締め的である、といった点が読み取れる。

特に、②は、2016年にイエレン議長が高圧経済に言及したアメリカが必ずしも高圧経済戦略を採っていなかったことを意味して興味深い。マイナス金利政策を採用したユーロ圏と採用しなかったアメリカの差ということかもしれない。

では、日本はどうであろうか。今年5月の日銀主催の国際コンファランスで内田副総裁は日本の自然利子率について6つの手法による推計値を示した。

これを見ると、日本の自然利子率はマイナス1.0%からプラス0.5%の間でばらついている。一方、実質金利は1年物でマイナス2%、10年物でマイナス1%となっており、どの推計法からみても依然緩和的な状況が続いているといえる。特に1年物の実質金利は期待インフレ率の上昇に伴いさらに低下しており、緩和度は高まっている。

市場が高圧経済思考を捨てられない?

日本が依然緩和的な金融環境であることは日銀が高圧経済戦略を採用しているかを判定するうえで必要条件ではあるが十分条件ではない。高圧経済戦略の肝は「物価が上昇しても実質金利をさらに低下させる」ことである。すなわち、名目金利の上昇を抑えて景気の過熱や物価上昇圧力の拡大を目指す点にある。

この点、植田和男総裁は今年5月の講演で「基調的な物価上昇率が高まっていけば、『物価安定の目標』実現の観点から適切となる金融緩和の程度も変化しますので、緩和度合いを調整していくことになると考えられます」と発言している。つまり、2%目標実現の確度が高まれば緩和度を小さくする方向で調整するとして、高圧経済戦略は採らないという宣言だ。

事実、3月の政策正常化を決めた声明文や4月会合の声明文で見られた「当面、緩和的な金融環境が継続する」という表現は、6月には声明文からも記者会見発言からも審議委員の意見を取りまとめた「主な意見」からもなくなっている。

つまり、日銀内では「利上げは様子見して緩和度を高め、2%目標達成を確実にする」という高圧経済戦略は採らない意思は5月から6月にかけてより明確になったといえる。期せずして円安の進行と軌を一にしている。

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