トランプ暗殺未遂から聞こえる戦争への足音 「貧すれば鈍する」民主主義を破壊するもの
東洋経済オンライン / 2024年7月28日 9時0分
トランプへの批判の多くは、彼が民主主義を否定するからだという。とりわけバイデンはそのことを強調する。しかし、皮肉なことに民主主義は民衆の意を反映したものが民主主義である以上、バイデンだけが一方的に民主主義というものを規定することができないのも確かなことだ。
トランプが2021年の国会議事堂乱入を扇動したかのように、クーデターでも行えば制度としての民主主義を破壊したことで、トランプは非民主的であるということがいえるだろう。
しかし、非民主的であると決めつけて、トランプを選挙以外の手段で抹殺すれば、それを行ったものこそ非民主的だということになる。
ウクライナ戦争が始まる前の2021年12月、バイデン大統領は民主主義国を集めたサミットを開催した。コロナ禍でのオンライン会議であったが、111の国が参加したようである。それは、中国とロシアに対抗する、民主主義連合であった。
その翌年の2022年2月、ウクライナで戦争が始まるが、その戦争は民主主義vs全体主義との闘争ということであった。バイデン大統領は民主主義という言葉をやたら好む大統領だが、民主主義とは何かについての彼の定義を聞いたことがない。
民主主義とは何か
では、民主主義とは何か。ギリシア語の意味からすれば、それは民衆の参加による政治ということであるが、民衆が直接政治に参加している国は、アメリカを含めてほとんど存在しない。
一般に存在するものは、間接的な代議制民主主義というものである。しかもその内実は国の数ほど異なる。全体主義と名指しされたロシアでも、民主的な選挙は行われているのである。
西欧民主主義のモデルとなっている都市国家アテネにしたところで、市民と奴隷身分が分かれ、朝から晩まで政治の議論ができるものは市民という少数者に限られていた。
もちろん、都市国家のような少人数の共同体では、奴隷といえどもその意志を市民に託すだけの余裕はあったので、間接的だが直接的民主主義に近いものがあったことは確かである。
ところが、現在の近代国家は、数千万人規模の人口を擁している。そこで政治に参加することは、数年に一度の選挙の中にしかない。それが代議制民主主義であり、国民の多くは直接政治に参加することはない。
それは当然なのだ。人々の多くは、個人の私的生活の豊かさに関心があるが、公的な政治には本来関心があるわけではないからである。
そのことを明確に示したのが、フランス革命の狂乱時代を生き抜いた、18世紀のフランスのバンジャマン・コンスタン(1767~1830年)である。彼の「近代人の自由と古代人の自由」という講演は、完全な民主主義を実現しようとするものが陥る狂気について書いている。
民主主義を強く志向する者の狂気
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