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「甲子園、2部制でも命が危ない」と医師警告のワケ 無理する球児を襲う「熱疲労の蓄積」の怖さとは

東洋経済オンライン / 2024年8月8日 13時0分

ところが、「チームが勝つために、自分が投げなければいけない」と考え、監督にも報告せず試合に出続けたらしい。これが重度の熱中症へとつながった。熱疲労蓄積の典型例である。

医学界ではこのことは古くから指摘されている。

1996年にアメリカのハワード大学の研究者が発表した、新兵訓練期間の海兵隊員を対象とした研究が有名だ。彼らは熱中症と診断された1454件のケースで、熱疲労の蓄積の影響を評価した。

具体的には、“Wet Bulb Globe Temperature Index (WBGTI) ”という指標で75〜80の環境に暴露されたケースと、熱曝露がなかったケースの熱中症の発症リスクを比較した(念のために記すが、アメリカのWBGTIは日本の「暑さ指数」とはまったく別物だ)。

研究結果は驚くべきもので、前日にWBGTIで75~80の熱曝露があった場合、コントロール群と比較して、熱中症の発症リスク(頻度)が約40倍増加したという。

WBGTI とは気温や湿度、日射など熱環境など、いくつかの指標を考慮して決められる。気温32℃、湿度42%などいくつかの基準を満たせば、WBGTIは80を超える。夏の甲子園はまさにこのような環境だ。

炎天下で連戦すれば、熱中症患者が続出してもおかしくない。近田投手の例は、おそらく氷山の一角なのだろう。

熱疲労の蓄積のメカニズムとは?

余談だが、最近の研究で、熱疲労の蓄積のメカニズムについても多くのことがわかってきた。

主要なメカニズムは炎症の連鎖反応だ。炎天下でハードトレーニングをしたあと一晩休息するぐらいでは、体内に炎症反応は残っている。翌日に同じような活動をすれば、炎症反応は一気に拡大し、重症化のリスクが高まる、というわけだ。

その際、筋肉の収縮を制御するのに重要な役割を果たす遺伝子(RYR1遺伝子)や、人体の熱制御に関わるヒートショックタンパク質を作る遺伝子などの多型(個人差)や異常が、熱疲労に関係しているようだ。

つまり、熱中症の発症のリスクには、個人差があるというわけだ。将来的には、ハイリスクの人は炎天下の屋外で行う競技を避けるように指導するなど、個別対応ができようになるだろう。ただ、それにはもう少し時間がかかりそうだ。

話を戻そう。

現在よりずっと気温が低かった1990年代に海兵隊を対象として、熱中症対策の研究が発表されているのは、彼らのトレーニングが熱中症のリスクが高いと判断されていたからだろう。

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