1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「甲子園、2部制でも命が危ない」と医師警告のワケ 無理する球児を襲う「熱疲労の蓄積」の怖さとは

東洋経済オンライン / 2024年8月8日 13時0分

海兵隊の新兵訓練は「ブートキャンプ」として、日本でも広く知られている過酷なトレーニングだ。そのなかには、炎天下でのランニングや長距離の行進も含まれる。

軍隊との関係が密接なことで知られるハワード大学の研究者が、ブートキャンプでの熱中症対策に興味を抱いたのももっともなことだ。

ちなみに、熱中症対策の観点からは「ブートキャンプ」以外に2つの競技が注目を集めていた。アメリカン・フットボールと長距離走だ。

オクラハマ大学のランディー・アイシュナー医師は「1995年以降、毎年3人のフットボール選手が熱中症で亡くなっている」と言う。長距離走が危険なのはいうまでもないだろう。 2001年のシカゴマラソンでは、マラソンに初挑戦した若い男性が26マイル地点で熱中症で倒れ、亡くなった。

1984年のロサンゼルス五輪でマラソン競技に出場したスイスのガブリエラ・アンデルセン選手のエピソードは、あまりにも有名だ。

意識がもうろうとして、真っ直ぐに走れない状態でゴールした姿が世界に映し出された。このときアンデルセン選手は、「最後の給水スポットでは水を飲めませんでした。(中略)確実にそのことが最後の数マイルに影響を及ぼしました」とコメントしている。

確かに、当時の五輪ではマラソンの給水所は4カ所しかなかったが(今は改善されている)、問題は脱水だけではないだろう。

前述したハワード大学の研究などが示すように、熱疲労の蓄積が大きな影響を与えた可能性が否定できない。ところが、筆者が探した範囲で、この点に言及した記録はない。当時は、五輪選手に対してですらこうだった。

「熱疲労の蓄積」どんな対策が必要か

熱疲労の蓄積という概念は、夏の高校野球の安全性を高めるうえで重要だ。猛暑のなか炎天下で連戦を経験するため、熱中症のリスクが高まるからだ。

だが、選手も指導者も無理をしてでも試合に出たがる(出したがる)。それは高校球児や指導者にとって、甲子園は人生の晴れ舞台だからだ。

近田投手のケースのように県予選からの疲労が蓄積していても、「少しふらふらしたが、宿舎で休んだら元気になった」と、試合に出場しようとする球児もいるだろう。「少しふらふらする」程度では、周囲も試合への参加を止めることはできない。

現時点で何ができるだろうか。

夏の甲子園のような炎天下で競技を行う場合、軽症の熱中症でも医師の診察を受けるようにすることだ。アメリカ家庭医学会(AAFP)は、「軽度の熱中症でも、24~48時間は暑さにさらしてはいけない」と言及している。

彼らの意見を尊重すれば、少しでも熱中症の症状がある球児は、少なくとも翌日の試合への出場は制限すべきということになる。近年の猛暑を考えれば、筆者もこの考え方に賛成だ。

では、どうやって出場を制限するかだ。選手と監督に判断させるのは酷だろう。主催者が医師の力を借りて制度化すべきだ。このような議論はまだなされていないが、球児の命を守るため、最新の医学研究を踏まえた合理的な議論が必要である。

上 昌広:医療ガバナンス研究所理事長

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください