都内の横幅1.8m「極細物件」工夫だらけ驚きの内部 「資材置き場」向きだった敷地に家を建てた
東洋経済オンライン / 2024年8月10日 8時0分
このフロアには、トイレ、浴室、テラス、ロフトが並ぶ。浴室は、「星を見ながらお風呂に入りたい」という夫婦の要望から最上階に配置されることになった。
光と風が通り、水まわりにも最適だ。さらにテラスからはしごを上ると、屋上にも出ることができる。
大きなキャットタワーのような立体的な空間。上下運動を伴う室内移動は楽しく新鮮だった。
内装の壁の色や、配管の配置にも工夫
少しでも広がりを感じられる空間にするために、相原さんは建物にさまざまな工夫を盛り込んだ。
道路に面した窓は、特注の1枚ガラス。光がしっかり入るうえ、開閉式で風も抜ける。ガラス面が分割されていないため、視線を遮らず、室内に太い窓枠の影が落ちることもない。
相原さんが「アクロバティックな試みだった」と語るのは、配管のオープンな配置だ。
排水・給水の配管や電気の配線などは、住宅の外部に設置するか、内部に設備が見えないように箱で囲むことが一般的だ。
今回は、外部にスペースを取れないため、室内に入れることにした。しかし、室内はオープンなつくりにしているため、箱をそのまま設置すると閉塞感が出てしまう。相原さんは空間を遮らない設置を考え、階段室を活用した。
「階段室の中央に排水用の配管を通し、周囲の細い柱には電気線を通しました。パイプは階段室の構造の一部として見せ、電気線の通った細い柱で囲むことで、圧迫感なく、配置することができました」(相原さん)
内部の壁は、ダークカラーのペンキを使い、夫婦や関係者で塗りあげた。落ち着いたトーンの壁の色によって、空間に奥行きが感じられる。床には素材感のある足場板を採用。段差部分で見られる木口の断面は、視界を彩り、空間のアクセントにもなる。
このほか、キッチンにはメッシュの釣り棚で抜けを作り、レンジフードをはめ込んで空間に溶け込ませるなど、パーツ類の配置にも工夫がされている。
物理的にも心理的にも、視覚的にも広がりが感じられる。限られたスペースを存分に活用しているのだ。
制約のある敷地、建築コストは抑えられるのか?
ちなみに細長い敷地や狭小地に建てる場合、敷地面積に合わせてコストが抑えられると思いがちだが、工夫を盛り込むことでもちろん費用はかかってくる。また、制約のある敷地だからこそ、一般的な住宅よりも、工事に時間がかかる場合もある。
「1.8m幅の家は、両隣に建物があるため足場を組めず、内側から作業を行いました。例えば、換気口や配管は外壁の施工と日程を合わせて同時並行で設置していきます。現場でコンクリートを作ったり材料を溶接したり、限られた敷地で順番に作業をしていきました。技術はもちろん必要ですし、足場のコストは浮いたとしても、手間がかかります」(相原さん)
こうして10カ月ほどの工事期間を経て、「1.8m幅の家」は完成した。
夫婦と猫が住み始めてから12年経つ。隣接していた建物はなくなり、周辺の景色は変化した。修繕や壁の塗り直しなどを重ねて暮らしている。
猫は、それぞれお気に入りの場所を移動しながら過ごし、Oさんも、段差に腰かけて猫を眺め、空間を行き来して自由に過ごしている。
さまざまな居場所が存在する空間で、猫も人も幸せそうだ。「楽しい家」というコンセプト通り、上下左右に移動する立体的な暮らしを楽しんでいた。
【その他の写真を見る】猫4匹と夫婦で暮らす豊島区にある幅1.8mの極細物件。家の中はどんな光景?気になる間取りも
鈴木 ゆう子:ライター
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