ダイヤ通りは6割、ドイツ鉄道「遅延」の深刻事情 「時間に正確」は印象だけ?ラテン系諸国は改善
東洋経済オンライン / 2024年8月10日 7時30分
ドイツ鉄道は、2021年に75.2%の定時運行率を達成したが、2022年には約10ポイントも数値を落としている。2023年は過去と同様、70%以上の定時運行率を目標として掲げていたが、10月までの10カ月間で66%と、目標に達することはできなかった。
その理由はさまざまだ。まず一つの大きな問題として、インフラの老朽化が挙げられる。
ドイツの鉄道は1835年の開通で190年近い歴史を誇り、総延長3万3000kmにも達する巨大な鉄道インフラとなっているが、橋や高架橋といった構造物そのものの老朽化はもちろんのこと、現在の高頻度な列車運行を行うには、線路配置や駅構内の構造などインフラシステムそのものが古すぎ、抜本的な改修が必要不可欠となっている。
しかし、3万3000kmもの路線網すべてをすぐに改善することは難しく、また不具合による補修工事なども重なって、思うような改善ができていない。
また、他国と異なり、中小規模の都市が面状に広がるドイツ特有の地理的要因も、遅延を招く要因となっていると言える。
面状に広がる鉄道システムは、ある1カ所で工事が発生すると、その影響はあっという間に他の地域へと波及していく。これに対し、例えばフランスはパリ一極集中で、パリと地方都市を結ぶ線状の運行形態が中心だ。この場合、各線の横のつながりはそれほど重要ではなく、点と点を結ぶことに集中すればいいため、遅延が生じにくい。
イタリアは日本と同様、国が細長い地形をしており、長距離列車の路線網も中心となるのは南北間で、フランスと同様に線状の運行形態が基本となっている。
定時性に優れるスイスは、九州よりも小さい国土面積に約5300kmの鉄道網が敷設されているが、鉄道の規模はドイツの6分の1しかなく、同列に語るのは少々酷なことだ。スイスもチューリヒ周辺は多くの路線網が交わり、かつては遅延の温床となっていたが、地下を通過する新しいホームや立体交差化などの工事が完了し、大幅に改善された。
ドイツの場合は、チューリヒのように改善しなければならない都市がいくつもあり、すべてに手が回りきっていないということも、遅延が改善しない理由の一つだ。
増え続ける需要、遅延対策どうなる?
こうした状況であるにもかかわらず、列車本数は旅客、貨物とも増加傾向にあり、今後も増えることが予想されている。ドイツの鉄道は2021年に延べ約14億人を輸送したが、2030年には約28億人に倍増すると試算されている。インフラを大きく改善しない限り、遅延を解消することは不可能といえよう。
ヨーロッパ屈指の巨大な鉄道路線網が大きく変貌を遂げ、定時運行率が上昇し、乗客の利便性が改善されるまでには、まだ年単位の時間を必要とし、利用客はただ辛抱強くその時を待つほかないだろう。
橋爪 智之:欧州鉄道フォトライター
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