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亡き娘の部屋に父が見つけた、悲しみ絶えぬ詩歌 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・葵⑧

東洋経済オンライン / 2024年8月11日 17時0分

「殿さまのおっしゃっていたように、若君にお仕えしていれば気も晴れるでしょうけれど、まだずいぶんおちいさなお形見で、張り合いもないわ」と言い合う。

「しばらく実家に下がって、また参上しようかしら」と言う者もいて、彼女たち自身の別れもまた名残惜しく、それぞれ思い出に浸るのだった。

藤壺からの言葉

参上した光君を見て、

「まったくひどいやつれようではないか。精進に日を重ねたせいか」と桐壺院はいたわしそうに言い、食事を用意させて勧める。あれこれと心を砕いてくれる桐壺院を、光君は身に染みてありがたく、また畏れ多く思う。藤壺(ふじつぼ)の部屋に行くと、女房たちは珍しいお客さまだと歓迎した。藤壺は、命婦(みょうぶ)の君を通じて、

「何かと悲しみの尽きぬことでしょう。時がたちましても悲しみはなかなか癒えないことと思います」とお悔やみを伝えた。

「この世の無常はたいがいひと通り心得ていたつもりですが、いざ自分の身に起きると、本当にこの世で生きているのもつらくなりました。それでもたびたびかけていただいたお言葉になぐさめられて、なんとか今日まで生きて参りました」

いつも藤壺の前では悲しげな光君だが、今日はそれにもまして痛々しく見える。無紋の袍(ほう)に鈍色(にびいろ)の下襲(したがさね)、冠(こうぶり)の纓(えい)を巻き上げた喪服姿は、はなやかな衣裳(いしょう)より、ずっと気品ある優美さを光君に与えている。東宮にも長いこと会っておらず、気掛かりでいることを伝えて、夜更け、光君は院の御所を退出する。

次の話を読む:8月18日14時配信予定

*小見出しなどはWeb掲載のために加えたものです

角田 光代:小説家

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