「日航機墜落事故」39年後に湧いた真相への疑問 時間の経過により見えてきた真実とは?
東洋経済オンライン / 2024年8月12日 11時0分
人権を無視した取り調べ、事情聴取である。松尾に対する事情聴取が始まる前の1987年3月には、群馬県警の取り調べを受けていた元運輸省職員が自殺している。群馬県警の事情聴取は聴取相手を自殺に追い込むほど過酷なものだった。それでも松尾は自分や日航に過失のないことを群馬県警の取調官に繰り返し説明し、決して自らの主張を曲げなかった。
日航、運輸省、ボーイング社の関係者とともに業務上過失致死傷容疑で前橋地方検察庁に書類送検されたが、結果は全員が不起訴で終わっている。群馬県警の取り調べがいかに理不尽だったかがよくわかる。
それにしてもどうして群馬県警はここまで刑事立件にこだわり、やっきになったのか。検察(検察は前橋地検と東京地検の合同捜査)の事情聴取も甘くはなく、厳しいものだった。
修理ミスを認めたボーイング社
警察や検察が松尾の取り調べを始める前にボーイング社は「事故の原因は自社の修理ミスにある」と認めた。ところが、警察と検察は「日航が修理中及び修理終了直後の領収検査で修理ミスを見逃した」「その後の定期検査でも修理ミスによって発生する亀裂(クラック)を見落とした」と判断し、非情な取り調べを続けた。なぜだろうか。捜査の土台となった航空事故調査委員会の調査は的確だったのか。ファイルを読んで感じる大きな疑問である。
1978(昭和53)年6月2日のしりもち事故の後、日本航空はJA8119号機に仮の修理を施し、大阪・伊丹空港から東京・羽田空港に飛ばした。圧力隔壁などが壊れていたので与圧せずに通常より低い高度で飛んだ。
羽田空港に着陸すると、機体を日航のハンガー(格納庫)に運び込み、ボーイング社の修理チームを待った。この空輸には当時、整備本部の技術部長だった松尾もコックピット(操縦室)のオブザーバー・シート(補助席)に座って同乗している。
松尾の進言によって日航はボーイング社の航空技術を信頼し、機体の修理をすべて任せた。ボーイング社の航空技術は世界最高の水準にあると言われていたし、機体はボーイング社が製造したものだった。日航が修理を委託するのは当然だった。
初歩的で単純な修理ミス
しかし、ボーイング社は後部圧力隔壁の修理で、1枚の中継ぎ板を2枚に切断して上部半分と下部半分の接続部の一部にそれぞれ差し込み、結果的にリベットが1列打ちと同じ状態となり、隔壁の強度が落ちた。初歩的で単純なミスだった。
何度も飛行を繰り返す間に金属疲労から多数の亀裂が生じ、隔壁は7年後の飛行で破れた。それが1985(昭和60)年8月12 日に起きた、520人の命を奪った航空史上最悪の日航ジャンボ機墜落事故である。
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