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大工激減の一方で、「大工講座」が大人気の事情 副業・兼業大工が増えることの意味とは

東洋経済オンライン / 2024年8月13日 10時30分

福島県出身の菅野さんは東日本大震災で被害を受けた郷里を同じやり方で面白くできるのではないかとも考えている。

「空き家のようなマイナスと思われているものから価値、資産を生み出せるなら今は何もなくなったようにみえる福島からも新しい価値を生み出せるのではないかと思うのです」

大工の育成講座と聞くと木の切り方や工具の使い方など実務的な内容をイメージするが、参加した2人はそれ以上に精神的な喜びや学びを得ているように思える。

「講座は午前中に仕事の楽しみ、意義や地域や仲間との協業、仕事をいかに自分事にするかなどといった座学を行い、午後からは手を動かすという形式です」と西村さん。「宮大工をはじめ職人はもちろん、地域の人たちと建物を作るコミュニティ大工、自ら手を動かす建築家等さまざまな方に話をしていただき、大工修行のハードルをどう下げるかを意識しました」。

入り口はできるだけシンプルにしてやりがいや楽しさを味わってもらい、仲間と協業することで継続できるようにするというやり方である。廃屋に手を入れて使えるようにすることは自ら資産を生み出すことであり、大工仕事を自分事化することにつながる。

一般的な大工が工務店やハウスメーカーからの仕事を受動的にやっていることを考えると、自分で能動的に仕事を生み出しているともいえる。それが他人に言われてやる仕事とは違うものになるであろうことは言うまでもない。

副業・兼業の大工が増えることの意義

西村さんは手応えがあったことから、育成講座を今後も続ける計画だ。いずれはオンラインでコミュニティを作り、相談したり、助け合えるようにしていきたいとも。大工を含め、これまでの職人たちが孤立しがちな存在であったことを考えると面白い取り組みだろう。

ここで育成されるのは半人前の兼業、副業大工で、職業人としての大工ではないが、地域に大工仕事ができる人が増える意味は大きい。個人宅の改修、空き家の再生、災害時のとりあえずの復旧など、ちょっとした大工の腕が必要にされる場面は多いからだ。

働く側としても本業を持ちながら、フリーランス的に「手に職を持つ」働き方ができるのは人生や暮らしの選択肢を増やしてくれる。空き家を改修・使えるようにできれば、自宅として使って住居費を抑えられるだけでなく、修理した家を貸せば文字通り、自分の手で資産を増やしてもいける。

半人前でスタートした人がその後、本気になって修行を重ねて本職の大工となれば多少なりとも大工不足解消に寄与することもありうる。そう考えると、まずはハードルを下げて大工作業に親しむこれまでとは異なる取り組みには大きな可能性があるように思える。

中川 寛子:東京情報堂代表

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