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"かぞかぞ"河合優実「令和版あの女優」になる確信 時代への疲労感を抱えた圧倒的な存在感

東洋経済オンライン / 2024年8月13日 11時0分

だから7月26日、NHK朝ドラの直後に放送される『あさイチ』に河合優実が出てきたときは、勝手にドキドキした。

特に問題や事件なく番組は進んだのだが(当たり前だ)、「♪キャンペーン実施中!」の似合わない若手女優が、『あさイチ』という、エグみを完全にウォッシングする装置のような番組の中に、ポツンと置かれている異物感が先に立ったのだ。

そして57歳の私は思ったのだ。「この異物感は、かなり前に、昭和の時代に受け取ったことがあるぞ、一緒のデジャヴュだぞ」と――。

「疲労感系」の俳優

この連載で、森七菜を取り上げたとき、森七菜の向こう側に斉藤由貴が見えることを指摘した。また安藤サクラと樹木希林を重ね合わせたこともある。

これらと同様に、よくよく目をこすって河合優実を見てみると、私には、あの女優が見えてくるのだ。

――桃井かおり。

それも1979年の桃井かおり。映画でいえば『もう頬づえはつかない』『男はつらいよ 翔んでる寅次郎』『神様のくれた赤ん坊』。そしてNTVドラマ『ちょっとマイウェイ』などで、強烈な異物感を振りまいて一気にスターダムにのし上がった頃の桃井かおりが、河合優実の向こう側に見えてきたのである。

異物感の源は、彼女らの発する時代への疲労感だ。2024年の河合優実にも、1979年にも桃井かおりにも「♪キャンペーン実施中!」が似合わない(似合わなかった)のは、彼女たちのほうが、視聴者側より「疲れている(た)」からだろう。

そんな「疲労感系」の俳優は、当然、不景気との親和性が高い。「失われた30年」が行き着き、株価が乱高下する2024年に河合優実、1979年前後の第2次オイルショックに桃井かおり、さらにいえば、第1次オイルショック(1973~1974年)には秋吉久美子がいた。

映画『もう頬づえはつかない』の冒頭で、木造アパートの中から、気だるそうに窓の外を見つめる桃井かおりが実に1979年的ならば、どんな役を与えられても、遠心力に頼らず、自分のほうにググッと引き寄せ、すべてを割り切り、悟り切った表情で役を演じる、いや「役を演じる」すら超えて、自らの中に「役を飲み込む」河合優実は、この上なく2024年的だと思う。

「かぞかぞ」を自信をもっておすすめできる理由

「かぞかぞ」を自信持っておすすめすることができるのは、昨年、BS時代に「かぞかぞ」を完走したからだ。そんな立場から、ネタバレにならない範囲で、それでも期待を煽るために1つだけ明かすと、全10話のうち、第8話のエンディングがとりわけ素晴らしかった。

「かぞかぞ」は、少々癖のあるドラマだ。なので、河合優実の異物感・疲労感、さらには、独特な味付けの脚本と演出に、身体を慣れさせながら、何とか第8話のエンディングにまでたどり着いていただきたいと、老婆心なから思う。そのときには、もう七実、いや河合優実のとりこになっていることだろう。

パリ五輪の関係で中断していた「かぞかぞ」の再放送が、今夜から復活する。個人的にはパリ五輪中継をほとんど見ていなかったので、七実(とマルチ)とまた会えるのを喜ばしく思っている。

時はお盆を超えて、7月の激烈な猛暑で積み重なった疲労感が、じわじわと身体に響いてくる残暑の季節へと移っていく。それはつまり、河合優実の季節だ。

スージー鈴木:評論家

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