高裁、異例判断「取り調べ検事が被告に」の根本問題 「プレサンス事件」が迫る捜査手法の転換
東洋経済オンライン / 2024年8月17日 9時30分
そうであれば、黙秘権を行使している被疑者を取調室に連れて行き、長時間にわたって質問攻めにすることは、黙秘権を保障した意味を無にするものではないかという疑問が出てくる。
黙秘権が保障されている以上、逮捕勾留された被疑者が取調室に連行されて取り調べを受け続けることを法的に強制すること(=取調受忍義務を課すこと)は許されないのではないかと取調受忍義務否定論は考えるのである。
この取調受忍義務否定論は、弁護士や学者の間では根強く支持されている見解であるが、現実の警察、検察の捜査実務では、これとは真逆の取調受忍義務肯定説という考え方が確立している。
一般の方々の多くも、犯罪が発生して容疑者(被疑者)が逮捕されたら当然に警察による厳しい追及、取り調べが行われるものと期待しているだろうし、被疑者が黙秘権を理由に取り調べを拒否することなどありえないと思っているであろう。
しかし、冤罪を生み出さないために歴史的に形成され、憲法でも保障されている黙秘権という権利の重さに加え、現実にも、今回のプレサンス事件のような取り調べが起きてしまっていることを考えるならば、取り調べを拒絶することができる権利をきちんと確立することがやはり必要ではないだろうか。
いわゆる郵便不正事件に端を発した検察による一連の不祥事を受けて、取り調べに過度に依存した捜査の在り方が改められ、取り調べの可視化、取り調べの録音録画が制度化された。しかし、今回のプレサンス事件の検察官による取り調べは録音録画されている中で起きた事件である。つまり録音録画されても違法な取り調べはなくならない。
今回のような取り調べは氷山の一角
今回のような取り調べがなされないためには、取り調べに弁護人を立ち会わせるというのも1つの方法であるが、より根本的には、黙秘権を権利として機能させることが最も重要だと筆者は考えている。
黙秘権は、まさに今回のような人格を無視した取り調べから被疑者の身を守るためにこそ機能すべきである。そのためには、取調受認義務は否定されなければならず(取調受忍義務否定論)、黙秘権を行使したら、それ以降、取り調べをすることは許されないという運用が確立されるべきである(黙秘権の取調遮断効)。
今回のような取り調べは氷山の一角であり、1人の検察官の不祥事で済ましてはならず、検察庁という組織の問題としてとらえるべきだ。大阪高裁の決定は「被疑者を厳しく取り調べて自白をさせる」という伝統的な日本の刑事司法における捜査手法に対して厳しく反省を迫ったものであり、今後の検察庁の対応が問われている。
戸舘 圭之:弁護士
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