「夫を亡くして放心」紫式部が中宮彰子に抱く共感 将来への心細さを抱えながら源氏物語を執筆
東洋経済オンライン / 2024年8月18日 10時0分
NHK大河ドラマ「光る君へ」がスタートして、平安時代にスポットライトがあたることになりそうだ。世界最古の長編物語の一つである『源氏物語』の作者として知られる、紫式部。誰もがその名を知りながらも、どんな人生を送ったかは意外と知られていない。紫式部が『源氏物語』を書くきっかけをつくったのが、藤原道長である。紫式部と藤原道長、そして二人を取り巻く人間関係はどのようなものだったのか。平安時代を生きる人々の暮らしや価値観なども合わせて、この連載で解説を行っていきたい。連載第32回は夫を亡くした紫式部が中宮・彰子に共感を抱いた理由を解説する。
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夫を亡くした式部に近づいてきた男
夫の藤原宣孝が急死してしまい、紫式部は娘の賢子とともに取り残された。
『紫式部日記』の「年ごろ、つれづれに眺め明かし暮らしつつ」(長い間することもなく、物思いに耽って夜を明かして、日暮れまでぼんやりと過ごしながら)の記述からは、半ば放心状態で日々を過ごしていた式部の様子が伝わってくる。
だが、女性がそんな状態のときにこそ、つけ入る隙がある――。そんなふうに考える、不届き者はいつの時代にもいるらしい。
式部が「私の家の門を叩きあぐねて帰っていった人が翌朝に詠んだ歌」として、次の歌を紹介している。
「世とともに 荒き風吹く 西の海も 磯辺に波は 寄せずとや見し」
(いつも荒い風が吹く西の海も、磯辺に波が寄せなかったことがあるのだろうか)
式部の家の門を何度も叩いたのに入れてもらえなかったようだ。
むなしく帰っていった男が、恨み言を言っているわけだが、式部はこう返している。
「かへりては思ひ知りぬや岩かどに浮きて寄りける岸のあだ波」
(虚しくお帰りになり、こういう女性もいるのだとおわかりになりましたか。岩角に浮いて打ち寄せた岸のあだ波のように、すぐに言い寄ってきたあなたは)
相手は女性とみれば寄ってくるような男だったため「自分はそんな口説きには乗らない」と、きっぱり断ったことがわかる。
しかし、この男、なかなかしつこかった。
「年返りて門はあきぬやといひたるに」(年が明けて、「門は開きましたか」と言ってきたので)、つまり「そろそろ私を迎え入れてくれますか」と新年早々やってきたので、式部はこう返事をしている。
「たが里の春のたよりに鶯の霞に閉づる宿を訪ふらん」
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