「手術or抗がん剤」医師はどうやって決めるのか 意思決定が「致命的なミス」になり得る外科医
東洋経済オンライン / 2024年8月19日 15時30分
会社選び、結婚、転職……人生に時に大きな決断の局面が訪れます。頼るものがないとき、どのように決めればいいのでしょうか。
治療の意思決定が致命的なミスになり得る「がん外科医」の中山祐次郎さんは、何よりも自分で決める大切さを強調します。新米外科医時代の失敗から得た教訓を本音で書き記した中山さんの新刊『医者の父が息子に綴る 人生の扉をひらく鍵』より一部引用・再編集してお届けします。
試験でのカンニングの誘惑
悪の誘惑というものは、まったく困ったことに、生きていく上でたくさんある。まるで大きな落とし穴がたくさん掘られた草っ原を、歩いているようなものだ。しかもその落とし穴は、ちゃんと覆いで隠されて、上に草まで乗せられていて、パッと見ただけでは落とし穴かどうかわからないこともあるのだ。
試験中に他の人の解答用紙を見る。これはカンニングといって、誰に聞いても明らかな不正である。つまり、ハッキリした落とし穴である。
僕は、こともあろうにこの大きな落とし穴に自分から落ちかけたことがある。冷静になって考えれば、落ちて良いことなどあるはずもない。それでも、ズルをしてでも、合格したい気持ちが強かった僕は、危なく落とし穴に落ちるところであった。
君はこれまで何度か試験を受けただろう。そしてこれからたくさんの試験を受けることになる。試験というのは孤独なものだ。自分だけが頼りで、誰にも相談できず、ちょっとした思い違いをしていても「勘違いしていますよ」と言ってくれる人はいない。
まるで強風の吹き荒ぶ中、穴だらけの道なき道を一人で歩いていくようなものだ。試験とは、こういう精神力もまた試されている。
君は一番の君の理解者だし、一番の味方だ
だが、ひとたび社会に出るとこのようなシーンはほとんどなくなる。君の人生における大切な選択は、50分以内とか90分以内に決める必要はなく、少なくとも数日は猶予がある。
基本的には誰にだって相談することができるし、ネットで検索して似たような人の似た悩みを見つけられるだろう。そういう風に見える。
でも、さらに逆説なのだけれど、本当に大事な選択は、誰にも相談せずに一人で決めるしかない、と僕は思っている。
たとえばどんな会社に入るか。どんな仕事をするか。どんな人と結婚するか。そして、どんな人間になるか。一度決めたらもう取り返しがつかないような選択は、なるべく自分一人で考え、自分がどうしたいかを厳しく自問自答し、決める。
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