「ポスト資本主義」では日本が再び先進国になる訳 マルクス・ガブリエル氏が語る日本の可能性
東洋経済オンライン / 2024年8月21日 10時30分
格差の拡大や富の集中、大量生産・消費による環境への負荷など、現在社会が抱える問題を「資本主義のせい」にする見方は少なくない。
そんな中、ドイツのボン大学教授で哲学者のマルクス・ガブリエル氏は、ポスト資本主義は脱成長でも、新自由主義でもなく、“人も企業もいいことをして利益を得る”という「倫理資本主義」だと主張する。倫理資本主義で社会はどう変わるのか、著書『倫理資本主義の時代』を世界に先駆けて日本で上梓したガブリエル氏に聞いた。
日本は改革を実施できるユニークな立場にある
――なぜ日本で最初に出版しようと?
この10年間、頻繁に日本を訪れ、多くの哲学者やそのほかの分野の教授、そしてビジネス界のリーダーや政治家たちと交流してきた経験から、日本は多くの改革を実施できるユニークな立場にあると感じました。
例えば、「カイゼン」。これは倫理的なビジネスを行うための手法ですが、日本の労働倫理が単なる個人の精神的な鍛錬ではなく、非常に安定した秩序によってもたらされていることは、世界的によく知られています。
中間層は強力で、トリクルダウン効果も機能している。つまり、強い経済によって運営される社会民主主義が日本ではまだ維持されているのです。 ただ、他国同様、日本もさまざまな脅威にさらされている。
そこで、哲学から得た洞察と日本におけるビジネス慣行や思想を組み合わせれば、日本がポスト資本主義としての倫理資本主義の先進国になるのではないかと。
――ただ、日本は変化に疎いというか、「変化を拒む国」だと思うのですが。
もちろんすべての変化がいいわけではなく、社会的変化に対して慎重であることも理解できます。だからこそ、変革ではつねに最善の方法をとらなければいけない。そこで登場するのが倫理資本主義です。これは、“消費者も、生産者も、起業家も、経営者も、労働者階級も、誰もがいいことをして利益を得る”というシンプルなものです。
――いいことをして利益を得る?
私たちは皆、いい睡眠を得たいし、同僚と良好な関係を維持して、いい環境で働きたい。そして平和と繁栄を望んでいる。企業がこれらに向けて貢献すれば、大きな利益を上げる可能性が高くなる。
もちろん、そこへ到達するには、個人の小さな決断1つひとつが、「いいことをしたい」という願望によって実行される必要があるし、それを個人、集団(家族)、組織(企業、社会)にスケールしていくことも必要です。
道徳的な消費を促す商品化があればいい
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