脱炭素への競争、日本企業の戦い方は正しいのか 次世代技術の確立を待たず、今できる対策を
東洋経済オンライン / 2024年8月22日 9時0分
脱炭素化への変革のレースで、日本企業は勝ち残れるのか――。著者が所属するシンクタンクの地球環境戦略研究機関(IGES)は2023年12月に「IGES 1.5℃ロードマップ」と題した報告書を公表した。副題を「日本の排出削減目標の野心度引き上げと豊かな社会を両立するためのアクションプラン」としたように、現行の政府によるGX(グリーントランスフォーメーション)戦略の代替案となる戦略プランを提案した。なぜ代替案が必要なのかについて、主に企業のビジネスとの関連を中心に解説する。本稿はその前編である。
地球がもう持たない。――世界が抱く危機感を、日本企業は共有できているのだろうか。
世界気象機関(WMO)によると、2023年の世界平均気温は観測史上最高となり、産業革命以前と比べて1.45度上昇した。一方、最新の科学的知見からは、1.5度の気温上昇は、現在のわれわれの生活を維持するうえでの「物理的限界」であるともされる。
自然界はさまざまなシステムが相互に支え合い、一定の頑健性をもって維持されているが、ある閾(しきい)値を超えると、後戻りできない変化が連鎖的に起こり、システム全体が維持できなくなる。このリスクが高まる閾値が「1.5度」だと考えられている。
間近に迫る、カーボンバジェットの枯渇
世界の平均気温の上昇は、主たる温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の累積排出量と強い相関関係がある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、50%の可能性で気温上昇を1.5度以内に抑えるために2020年以降に排出できる総CO2排出量(残余カーボンバジェット)は約500ギガトン(5000億トン)。これに対して現在、世界全体で年間40ギガトン以上のCO2が排出され、しかも増加を続けている。
このままではあと10年以内にカーボンバジェットを使い果たしてしまうことは明白であるため、2050年までにカーボンニュートラルを達成するだけでなく、早期かつ大幅な排出量の削減が必要不可欠である。
また、この大幅な排出量の削減には、社会経済システム全体において急速かつ広範囲に及ぶ移行が必要とされている。
こうした確かな科学的知見を元に将来を見通せば、企業を取り巻く事業環境は、比較的短い時間軸で大きく変化していくことが避けられない。そうであれば、その変化の中で生き残り、企業価値を高めていけるように、企業自身もいち早く変化に向けた行動を起こそうとするのが合理的であろう。
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