赤坂真理さん独白「本当に欲しいのは幸せだった」 「生きづらさを緩和しようと」して求めたもの
東洋経済オンライン / 2024年8月22日 17時0分
お酒を飲む人は、緊張をやわらげたくて飲んだ。すると緊張はやわらいで、幸せだったはずだ。その幸せが忘れられなかったからこそ、その方法に固着した。その方法しか知らなかった。その方法しか効かないと思い込んだ。その方法自体、ダメージの大きいものだったということは、始めたときには知らなかった。あるいは頭では知っていたとしても、今ここにある苦しみから逃れることで精一杯だった。切羽詰まっていた。
それだけの苦しみがあったということだ。本当はその苦しみ自体を取り扱えればいちばんよかったかもしれない。けれどそんな方法はわからなかったし、苦しみに直面すること自体が怖かったのだ。
かくて、それを覆う方法を見つけた。一般的にアディクション(≒依存症)とみなされているものは「最初に傷を覆う方法」のことである。これをやめたときに、自殺してしまう人も少なからずいる。
緩衝帯が逆に日常を圧迫してしまう状態
いわゆる依存症という病が、最初からあるわけではない感じがしていた。症状そのものが一番の問題でもない気がしていた。アルコールならアルコールが、最初からその問題として、あるわけではない気がしていた。
わけがあって飲んだ。生きづらさがあって飲んだ。それが真実だろう。生きづらさを紛らわしながら、この世界でやっていくために飲んだ。この世界とのあいだにアルコールでクッションをつくりながら、世界と折り合おうとした。つらくても、そうまでしてがんばった。
こういう意味で、アディクトには真面目な人たちが多い。よく信じられているような「だらしない人たち」ではなく、むしろ人一倍真面目くらいの人が多い。なにしろアルコールや合法違法の薬物を大量に使ってまで、この世界に適応しようとしていたのだから。
アディクションとは、それがどういうものであったとしても、当人が最初の生きづらさを緩和しようとして発見した「セルフ緩和ケア」であると思う。いちばん手に入りやすいもので、いちばん合うものを選択する。繰り返すが、そうやってこの世界の諸事に対応しようと一生懸命な彼らは、真面目な人たちである。
世界と折り合うために、セルフ緩和ケアによって「クッション」あるいは「緩衝帯」をつくる。アディクションとは、クッションが日常を圧迫し過ぎた状態、あるいはクッションが日常を凌駕してしまった状態をいうのだと思う。そして、それだけつらかったということに他ならないと思う。
赤坂 真理:作家
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