「パレスチナ問題」こんなにも複雑になったなぜ 人気世界史講師が今さら聞けない常識を解説
東洋経済オンライン / 2024年8月23日 17時0分
パレスチナをめぐって再び争いが起きるのが1967年の第3次中東戦争です。このときはイスラエルがエジプト、シリア、ヨルダンに宣戦布告し圧勝しました。これによってイスラエルの領土は倍増し、パレスチナ人が多く住むガザとヨルダン川西岸地区はイスラエルに組み込まれることになります。
これも同じです。武力による国境変更なのだから、イスラエルの領土の拡大は認められないといわなければならないのです。欧米諸国がイスラエルを調子に乗せてしまったといわざるをえません。
第3次中東戦争に敗れたエジプトとシリアの逆襲戦が1973年の第4次中東戦争です。この戦争もイスラエル優位で終了し、エジプトは長年争いが続いたイスラエルと和解することを決め、1979年にエジプト=イスラエル平和条約を結んで第3次中東戦争で奪われていたシナイ半島を返還してもらいます。
エジプトがイスラエルと和解したことで、パレスチナ人の置かれる状況は苦しくなっていきました。そこで1987年にインティファーダと呼ばれる暴動がガザやヨルダン川西岸地区で起きます。そして、大きな時代の変化が起きます。それが冷戦の終結でした。
元来、パレスチナ問題と冷戦=米ソの対立に関連は強くありませんでした。しかし、解決困難な問題を解決できる可能性がある、という雰囲気をつくったのです。こうして1993年にパレスチナ暫定自治協定が結ばれます。パレスチナ人側も、イスラエル国家の存在を認めないという主張が空想であることを認めたわけです。
イスラエルはガザとヨルダン川西岸地区から1999年までに撤兵し、両地区にパレスチナ国家を樹立するというものです。1994年にはパレスチナ自治政府もつくられます。遠回りをしたあげく、1947年の国連パレスチナ分割案よりも少ない領土ですが、ようやく問題が解決したかに見えました。
出ていくはずのイスラエル軍が居座っている
ところが数年のうちに事態が悪化していきます。パレスチナ暫定自治協定を結んだイスラエル首相のラビンが1995年に暗殺されました。このあたりから、イスラエルは口では二国家共存といいながらパレスチナ人居住区(ヨルダン川西岸地区)へのユダヤ人の入植を進めていきます。一方、パレスチナ人側もイスラエルの存在を認めない急進派のハマスが力を伸ばしてきて、話し合いでの解決が困難になっていくのです。
2000年になると、イスラエルでのちに首相となるシャロンがイェルサレムにあるイスラームの聖地に足を踏み入れたことをきっかけに第2次インティファーダが始まります。パレスチナ自治政府内では穏健派のファタハと急進派のハマスの対立が激しくなり、2007年にはハマスが統治するガザと、ファタハが統治するヨルダン川西岸地区に分裂していきます。
パレスチナ暫定自治協定では1999年までにイスラエル軍はパレスチナ人居住区から撤兵する予定でした。ところが撤兵したのはガザのみでヨルダン川西岸地区では行われていません。現在でもヨルダン川西岸地区の6割がイスラエルの支配下に置かれています。
地図を見ればわかるようにヨルダン川西岸地区でパレスチナ人居住区は周りをイスラエルに囲まれ隔離された状態になっています。アパルトヘイトと呼ばれる黒人隔離政策をとっていた南アフリカとまったく同じです。つまり、イスラエルのパレスチナ人へのジェノサイドといっても過言ではないでしょう。
2023年に起こったイスラエルとガザの紛争において、もちろん双方ともに言い分はあるのでしょうが、最低でもパレスチナ暫定自治協定の時点に戻って考えれば、イスラエルに非があるように思えるのです。皆さんはどうお考えですか。
荒巻 豊志:東進ハイスクール講師
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