表示数稼ぎの過激投稿、ネットから消えぬ根本原因 私たちの「関心」が経済的価値を持つジレンマ
東洋経済オンライン / 2024年8月26日 16時0分
このビジネスモデルの下では、ユーザーのクリック=反射を得られるかどうかが極めて重要になるため、内容のクオリティや信頼性は二の次になる。そこでは、当然ながら、丹念な取材をもとに書かれた退屈な真実よりも、クリックを得られる刺激的で魅惑的な偽情報のほうが経済的利益を生むのである。
2024年1月の能登半島地震では、インプレッション(表示数)を稼ぎ広告収入を得るために海外から発信された――インプレ・ゾンビらによる――X上の偽情報が救出活動を妨げたなどと問題視されたが、これなどはまさしくアテンション・エコノミーがつくり出した悲劇的現象にほかならない。
ただ、個別の偽情報を叩いても「モグラたたき」のようにまた新しい偽情報が次々と現れる。偽情報を本当に減らしたいのならば、モグラが生まれる土壌、アテンション・エコノミーなる“構造”を変えていかなければならないのである。
アテンションを奪う方法
フィルターバブルやエコーチェンバーといった問題も、アテンション・エコノミーと構造的につながっている。
アテンションを奪うには、そのユーザーの属性をプロファイリングし、この結果(セグメンテーション)に基づきレコメンドすることが有用であることは想像に難くない。こうした実践の結果、ユーザーは、AIが「興味なし」と判定した情報やコンテンツがフィルタリングされた泡(フィルターバブル)のなかに包囲され、泡の外部に存在する公共や他者との接点を失うなどと指摘されている。
また、ユーザーのアテンションを奪い続けるには、ユーザーの政治的見解と似た考えをもつ者の投稿などを積極的にレコメンドすることが有用である。結果、特定の政治的見解が“泡”のごとき閉鎖的空間のなかで反響(エコー)し、それ以外の見解を排斥してどんどん先鋭化・過激化していくなどと指摘されている。
人間は、認知バイアスとして、繰り返し同じ情報に接触することでその情報を正しいと感じるようになるという「真実錯覚効果(illusory truth effect)」をもつというが、エコーチェンバーという「反響室」ではこのバイアスが非常によく効く。
実際、Qアノンのような陰謀論者の多くは、SNSで陰謀論に何度も接触したこと――まさに陰謀論がエコーのように閉鎖的情報空間の中で反響したこと――で、これを絶対的真理と信ずるに至ったと指摘されている。
こうみると、アテンション・エコノミーがつくり出したエコーチェンバーは、政治的・社会的分断を加速させているだけでなく、偽情報の増幅にも加担しているということになろう。「虚偽しか聞かない者にとって、真実は存在しない」(G.Michael Parsons)との言葉は、この状況を端的に表している。
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