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「虎に翼」LGBTQ描写に反発する人に言いたいこと 性的マイノリティを描くことは今や世界的潮流

東洋経済オンライン / 2024年8月27日 10時30分

監督は、自身もゲイであることを公表している橋口亮輔で、1980年代後半から性的マイノリティの男性の苦悩を描いてきた軌跡の上にある、ひとつの到達点とも言える切実な作品だ。

“触れただけの物語”が量産されてしまう恐れ

それから20年以上が過ぎ、社会の意識も変わった。性的マイノリティを取り上げる作品も増えた。だが、それによって、なくなってしまったのは“新鮮さ”と“切実さ”かもしれない。

数が増えることによって、当事者ではない観る側の人びとも、意義は認めつつ「またか」と感じてしまうのかもしれない。初めて取り上げられる事象に対する“新鮮さ”、未知のものを理解したいという感情が生まれることは少なくなっているだろう。

さらに、もちろんすべての作品がそうというわけではないが、取り上げる作品が増えることで、その“切実さ”が足りない作品も紛れ込んでくるだろう。作り手が、あくまで“流行の事象”として、深く考えずにそのテーマを挿入しただけであれば、視聴者も見抜く。

そして、それは何より当事者の方たちに失礼な態度なのではないだろうか。作り手が切実に向き合う気がなく、“トピックとして加える”感覚の先に、『バズ・ライトイヤー』のような、その設定がなくても成立する“触れただけの物語”が量産されてしまうのではないだろうか。

当事者性があることと作品としての素晴らしさは決してイコールではないが、「作り手が当事者なのかどうか」という疑問など湧かなくなるほどに、このようなテーマを扱う場合には、切実さが必要なのではないだろうか。

NHKが取り上げることの重み

“新鮮さ”も“切実さ”も併せ持っていた近年の例で言えば、『虎に翼』と同じく吉田恵里香の脚本によるNHKの夜ドラ『恋せぬふたり』(2022年)が、良いケースだった。

アセクシャル(恋愛感情を持たない人)を主人公に描かれた8話のドラマで、ギャラクシー賞など数多くの賞も受賞。主人公の切実さや、主人公がアセクシャルであることを知った周囲の登場人物たちの感情の動きが丁寧に描かれていた。

決して設定として“挿入”されたわけでもなく、押し付けがましいわけでもない。ドラマとして面白く見られながら、アセクシャルという存在への認識も深まる、絶妙なバランスの作品だった。

素晴らしい物語が社会性を持っていることはよくある。だが、その逆は必ずしもそうではない。社会性があっても面白くない物語はたくさん存在する。そのバランス感覚は作り手の才能に委ねられるだろう。朝ドラ『虎に翼』も、この絶妙なバランスの感覚の上に作られている珠玉の作品だと考えている。

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