「人はなぜ老いるのか」物理が導き出した答えは? 「水とインク」の実験から時間の流れを科学する
東洋経済オンライン / 2024年8月28日 17時0分
「重力はなぜ存在するのか?」という問いは、物理学の歴史の中で極めて重要な役割を果たしてきました。数多の物理学者がこの謎に挑み、自然界の基本的な法則や宇宙の構造を解明していったのです。
カルフォルニア大学バークレー校教授で、素粒子物理学や宇宙論を専門とする野村泰紀さんも、そうした謎に挑む1人です。本稿では、野村さんの最新刊『なぜ重力は存在するのか』からの抜粋で、「時間はなぜ一方向にしか進まないのか」という謎について、物理学的な視点からの考察を紹介します。
時間はなぜ一方にしか進まないのか?
物理学の一分野である統計力学は、時間の性質について重要な示唆を与えてくれます。時間の進行が統計的な性質によるものだと考えることができるのです。
【イラストで解説】水の入った水槽に赤いインクを垂らすと水全体がピンク色に染まるが、ピンク色になった水が再び透明にならないワケ
ニュートン力学、相対性理論、量子力学は、時間の前後を区別しません。すなわち、時間の方向性の概念は入っていないのです。
これに対して、私たちが感じる時間の一方向性、つまり「時間がなぜ一方にしか進まないのか?」という問いは、統計力学によって説明できる可能性があるのです。
時間の方向性を考えるうえで大切なのが、「エントロピー」という概念です。エントロピーとは乱雑さや無秩序さを示す尺度です。自然界の事象はエントロピーが増大する、無秩序な方向に進みます。
たとえば、正確な例ではないのですが、部屋は時間が経つと、どんどん散らかっていきます。汚い部屋が時間の経過とともに自然に片付いていくことはありません。これはつまり、きれいな部屋から汚い部屋への一方向性があると考えられます。
別の例を出すと、たとえば、水の入った水槽に赤いインクを垂らすと、インクは時間とともに水全体に広がり、水全体がピンク色に染まります。しかし、いったんピンク色になった水が再び透明になって、インクが1カ所に集まることはない。つまり、時間の方向性が生まれているように見えるわけです。
この現象をミクロにみれば、インクの分子が水の分子と衝突しながら広がっているだけです。単に分子の衝突がランダムに起こっているだけで、そこに何らかの方向性があるわけではありません。
インクを入れた水が透明に戻らない理由
理論上は、いったん水の分子の中に拡がったインクの分子が、たまたま再び1カ所に集まることもあり得ます。
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