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「就労での重訪が認められない」重度障害者の嘆き 厚労省が「個人の経済活動を利する」と拒む現状

東洋経済オンライン / 2024年9月1日 9時0分

普通に考えれば、就労できる人には働いてもらい、税金を納めてもらうほうが国や自治体にとっても合理的だろう。なぜ、厚労省は労働での重訪支給を認めないのか。

就労における公的な支援は不公平?

国側の主張の主旨は、①公的な支援で個人の経済活動を利するのは不公平、②合理的配慮を提供するのは事業者側の義務――というものだ。障害者福祉に詳しい藤岡毅弁護士は、こう反論する。

「車いすや補聴器などの器具にも公的な支給制度がある。これらを仕事中に使う人は大勢いるが、誰も『国が経済活動を利してずるい』などとは思わない。就労への物的支援は認めるのに、ヘルパーによる人的な補助はダメというのは、論理的に破綻している」

「食事やトイレの介助などは、企業側が提供するべき合理的配慮の範疇を明らかに超えている。国は自らの責任を放棄し、事業者側へ押しつけているだけに見える」

国側が根拠としているのは、「経済活動に係る外出には重訪を支給しない」と定めた厚労省告示第523号だ。しかし日本国憲法は個人に労働の権利と義務を保障し、障害者基本法は障害者に経済活動への参加機会の確保を認める。

「役所が勝手に決めた告示なのに、上位概念の法より優先され、国民の権利を縛っている現状はおかしい」(藤岡弁護士)

国連もこうした現状を問題視している。2022年9月に日本政府へ出した障害者福祉に関する改善勧告には、「職場での個人的支援の利用制限を撤廃すること」との趣旨の文章が盛り込まれた。

事実上、厚労省告示を批判する内容だ。それでも厚労省側は、「真摯に受け止めているが、個別の対応はとくに考えていない」と意に介さない。

代わりに厚労省が進めるのは、2020年に始めた「就労支援特別事業」だ。職場での介助に補助金を出す制度だが、取り組むかは自治体の任意。準備中を含めても導入するのは全国で約80市区町村、全体の4%程度にとどまる(2024年3月末時点)。

この制度で重訪を用いて仕事に就くのは計114人。重訪の利用者は全国で約1万2000人いることを考えると、その全員が働けるわけではないとはいえ、あまりにも少なく感じる。

導入していない自治体に住む重度障害者は、就職を実質的に封じられている。一方、厚労省は「そもそも働きたい人がどれだけいるのか不明。必要であれば取り入れるよう、各自治体には呼びかけている」と説明する。

煩雑な制度で使いにくい

問題は普及率の低さだけではない。この事業では「重訪を経済活動に支給しない」という大枠が維持されたのだ。自身も四肢マヒなどを抱え、介助付きで公務をこなす、れいわ新選組の天畠大輔参議院議員がこう指摘する。

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