「就労での重訪が認められない」重度障害者の嘆き 厚労省が「個人の経済活動を利する」と拒む現状
東洋経済オンライン / 2024年9月1日 9時0分
「特別就労支援事業は『業務上の介助』と『生活上の介助』を線引きしている。企業への補助金支給である『雇用施策』と、生活介助のための『福祉施策』を組み合わせた制度設計なので、利用者とヘルパー派遣事業所、雇用主の事務作業が非常に煩雑だ。結果として、どのような介助なら申請してよいのかもわかりにくい」
つまり、厚労省告示第523号に拘泥するあまり、補助制度の利便性が損なわれるという事態に陥っているのだ。
実際の利用者はどう考えているのか。福岡県北九州市の岩岡美咲さんは、高校2年生のときに体操競技で頸椎を骨折し、首から下が不自由になった。北九州市立大の大学院に通う傍ら、地元の不動産会社でアルバイトに励む。
週3回、各3~4時間ほどの業務はすべてテレワークだ。口元の動きを機械で読み取ってパソコンを操作し、物件資料や社内報の作成を担当する。こうした就業中の介助を就労支援特別事業で賄う。
「新しく仕事を任せられたり、『ありがとう』と言ってもらえたりすると励みになる」とうれしそうに語る岩岡さん。充実した日々を過ごす一方で、複雑な手続きをヘルパー派遣事業所に強いており、負い目も感じている。
介助の対象が「就労」と「日常生活」のどちらなのかを細かく分けて記録し、月末に関係機関へ提出する必要があるからだ。「ヘルパー側の理解がなければ続けられない。余計な手間を掛けさせて申し訳ない」(岩岡さん)。
岩岡さんのアルバイト先である「株式会社DL」の大城幸治社長は、「一生懸命で周囲にも好影響を与えている。大学院の卒業後はぜひ正社員になってほしい」と評価。ただ、「採用前の手続きを自分でやってくれたから雇えた。障害者の制度に明るくない会社には難しい」と明かす。
役所との折衝や、必要な書類の準備などを岩岡さんは自ら率先して行った。本人は「行政側の担当者が熱心で恵まれていた」と振り返るが、大城社長は「きっと大変な負担だったと思う」と慮る。
就労支援特別事業に申し込む際、事前に雇用契約書を求められたのにも、面食らったという。「企業側は制度の活用を前提に重度障害者を雇う。先に契約を結べと言われれば、ハードルを感じる会社も多いだろう。せっかくの事業なのにもったいない」(大城社長)。
ヘルパー事業所の反応が気になる
記事の冒頭に登場した小暮さんは、一般企業への就職を諦めた後、手作りアクセサリーの個人販売で生計を立てようと考えた。住んでいる大阪府吹田市が今年4月、就労支援特別事業を導入。この一報を聞いた際は「ようやく職業を持てる」と喜んだ。
ところが、いまだに利用の申請すらできていない。実家を出て一人暮らしを始めたことで、新たに関わるヘルパー事業所が増えた。まだ知り合ったばかりの状態で、さらなる事務的な負担を強いるのに心理的な抵抗があるという。
「この制度を利用したいとヘルパー事業所に言ったら、向こうがどのような反応をするかわからない。国の制度として、就労中の重訪利用を認めてくれればいいのに……」(小暮さん)
障害者の法定雇用率は2026年度に2.7%へさらに引き上げられる方針だ。「誰もが活躍できる社会」の実現をうたう政府は、法制度の網から漏れてしまっている当事者たちの声を、どう受け止めるのだろうか。
石川 陽一:東洋経済 記者
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