登山・ボクシングと「3足のわらじ」履く医師の矜持 中東やアフリカの紛争地で外科医として活動
東洋経済オンライン / 2024年9月3日 16時0分
「病院にたどり着く人はだいたい助かる。『ナチュラルトリアージ』といって、人はすでに撃たれたときにふるいにかけられている。例えば、心臓や大動脈を撃たれた人は即死するので、病院にたどり着かない」
印象に残っているのは、初めて派遣されたイエメンだという。
当時は空路が使えず、ジブチ共和国からイエメン第2の都市であるアデンまで、漁船のような船で12時間かけて向かった。いよいよ上陸するというときのことだった。銃を持った兵士がやってきて、緊張感が走った。
こんな経験もした。懸命の治療にもかかわらず、命を救えなかった重症の子どもがいた。父親は「すべてアッラーの定めたこと」だからと、静かに家族の死を受け入れていた。
「MSFの活動地での仕事はとても忙しい 。手術の回数は日本で勤めた病院よりずっと多い。私は手術が好きなので、これには不満はありません」と池田さんは言う。
医者になるならやめたほうがいい
医師の活動とともに力を入れているのが、ボクシングだった。
池田さんがプロボクサーを目指したきっかけは、中学1年生のとき。テレビで観た辰吉丈一郎と薬師寺保栄の試合の迫力にのめり込んだ。
中学、高校とボクシング部がなく、大学生からジムに通い始めた。4年生のときには宮城県代表として国体に出場。プロを目指そうと思ったが、所属ジムの会長に「医者になるならやめたほうがいい」という忠告を受け、あきらめた。
再開したのは、2013年に熊本で働き始めたときだ。気晴らしと運動不足を解消するため地元のボクシングジムに通い始めた。
シャドーボクシングをしていると、ジムの会長が「来月、プロテストがあるけど受けてみないか」と誘ってきた。経験者だと見抜いたからだった。
当時、池田さんは32歳。年齢制限のためプロテストを受けられる最後の年齢だったが、見事にC級ライセンスを取得。翌年6月にはデビュー戦をKO勝利で飾る。2016年と2017年の2回、新人王トーナメントにも出場し、通算4勝を上げ、プロのB級ライセンスを取得した。
その後も2勝して、A級ライセンスを取得したら引退しよう。そう考えていたが、結果は1勝1敗。当時、池田さんは37歳、日本ボクシングコミッション(JBC)が定めるプロボクサーの定年を迎え、ライセンスは失効、強制引退となった。
「悔しかったですね。あのときは、寝ても覚めても“自分は負けた”という事実がつきまとっていた。勝つまでは気が晴れることはないと思いました」(池田さん)
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